2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21320004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 哲哉 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (60171500)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山脇 直司 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30158323)
黒住 真 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (00153411)
北川 東子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (40177829)
野矢 茂樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50198636)
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Keywords | 宗教 / 犠牲 / 殉教 / マカバイ記 / アブラハム / キルケゴール / 悲劇的英雄 / 信仰の騎士 |
Research Abstract |
ユダヤ・キリスト教思想と日本の宗教思想において犠牲(サクリファイス)の観念がいかに機能しているかを検討する中で、今年度明らかになったと言える最大のポイントは、「殉教」の思想の重要性である。最近、日本のキリシタン禁制時代に「殉教」した日本のカトリック信者多数が教会によって「列福」されるに至ったが、殉教者を列福・列聖すなわち信仰の模範として顕彰するという儀礼は、祖国のために死んだ戦死者を自己犠牲の模範として顕彰する国家儀礼と同型性をもっている。「神のために死ぬ」殉教の観念はキリスト教以前にユダヤ教において発達し、旧約聖書外典の「マカバイ記II」に記された「エレアザールの殉教」および「7人兄弟の殉教」には、律法を守って死ぬ者が崇高な犠牲精神を発揮するとき、それが模範となって後に続く者を鼓舞するという犠牲の論理と、殉教者の母が息子の自己犠牲を名誉として受け入れるという「靖国の母」にも似た感情構造が確認できる。 近代の国家・民族による犠牲の論理の原型が、このユダヤ教的「殉教」観念にあるとすれば、遡って「創世記」22章のアブラハムによるイサク奉献の物語の意味も再検討されねばならない。キルケゴールはこの物語を解釈して、国家・民族の犠牲の論理を体現する「悲劇的英雄」から、アブラハムのように単独者として犠牲を決断する「信仰の騎士」を区別したが、父が息子の犠牲を信仰ゆえに受け入れる「信仰の騎士」の構図は「7人兄弟」の殉教と母の関係に同型的であり、「悲劇的英雄」と「信仰の騎士」を厳密に区別することは困難になるからである。アブラハムのイサク奉献の物語を、ユダヤ・キリスト教の殉教思想の歴史、さらに現代のイスラム世界の一部に見られる「自己犠牲」の論理とのつながりから再検討する課題が浮上した。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article]2010
Author(s)
高橋哲哉, ほか(共著)
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Journal Title
光は闇の中に輝いている-靖国・天皇制・信教の自由バプテスト40年の闘い(新教出版社)
Pages: 50-75
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