2012 Fiscal Year Annual Research Report
物理的クォーク質量における有限温度・有限密度QCDの格子研究
Project/Area Number |
21340049
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金谷 和至 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80214443)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 素粒子論 / 量子色力学 / クォーク・グルオン・プラズマ / 格子場の理論 / 計算物理学 / 有限温度 / 有限密度 / 状態方程式 |
Research Abstract |
本プロジェクトは、有限温度・有限密度QCDを、u, d, sクォークの質量を現実の価に合わせたNf=2+1 格子QCDシミュレーションにより研究すること、及びそのための手法を開発することを目的としている。多くの研究ではスタガード型格子クォークを使っているが、原理的な問題を含んでいるので、本プロジェクトでは理論的に確立したウイルソン型クォークを使って研究する。 平成20年度に開発したT-integration法は、固定格子間隔アプローチにより、計算時間を大幅に抑えつつ、精度の高い有限温度計算を遂行する可能性を拓いた。クエンチ近似での試験研究の成功を受けて、現実的なNf=2+1QCDシミュレーションを、u,dクォーク質量が現実よりやや重い点で実行し、今年度、ウイルソン型クォークとして初めてのNf=2+1 QCDの状態方程式の計算結果を論文に発表した。また、この研究で生成されたQCD配位を使って、固定格子間隔法による静的クォークの自由エネルギーを計算し、固定格子間隔法が自由エネルギーの研究においても利点があることを示した論文を発表した。現在、これらの研究を拡張して、u,dクォーク質量をより現実の値に近づけたシミュレーションに向けて準備を進めている。 この研究と並行して、相転移次数を簡便に調べる新しい方法として、ヒストグラム法を開発し、その有効性の検証を、クォーク質量が大きい極限の近傍で行い、この場合の有限温度相構造を決定した論文を発表した。これを有限密度に拡張した研究も行い、論文を準備中である。ヒストグラム法をクォークが軽い場合に検証するため、現在、Nf=2 QCDでシミュレーションを実行している。既に化学ポテンシャルを大きくしたときに予想されている臨界点の出現を示唆する結果を得ており、その確認を進めている。 また、これまでのグループの研究を総合的に解説した論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々が開発したT-integration法(固定格子間隔アプローチ)を、クォーク質量を軽くした現実的な場合に応用するためには、固定格子間隔アプローチの利点を活かす形でのベータ関数の計算方法を開発する必要がある。再重み付け法(reweighting法)を使ったベータ関数の新しい計算方法を考案し、その試験研究を行っており、実際に計算可能であることを確認したが、計算精度が目標には達しておらず、まだ実用になる水準には達していない。更なる工夫を盛り込む必要がある。また、既に結果の出ている研究成果を複数の論文にする作業も遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は最終年度であり、これまでの成果を論文にする作業を進めるとともに、現在進行中の2つの主要プロジェクトをまとまった成果に導く。 ヒストグラム法によるNf=2 QCDの研究は、現在、統計をさらに蓄積するともに、クォークがより軽い領域に拡張するシミュレーションを進めている。また体積依存性を調べるために、体積が大きな格子での大型シミュレーションも開始した。臨界点の存在を明確に示した格子シミュレーションは無く、現在得られている兆候を確定できれば、格子による有限密度QCD研究を大きく進めることが出来ると考えている。固定格子間隔アプローチによる改良Wilson型クォークによるNf=2+1 QCDの研究では、現実的なクォーク質量近傍のシミュレーションを開始する。さらに、T-integration法を用いた状態方程式の研究のために、ベータ関数の研究を更に進める。
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Research Products
(24 results)