Research Abstract |
本研究では,低温下で二核鉄(III)錯体[Fe_2(μ-O)(OH_2)_2(6-hpa)](ClO_4)_4(1)とH_2O_2との反応を行い,種々のスペクトルを測定してμ-オキソ-μ-パーオキソ二核鉄(III)錯体2とμ-オキソジオキソ二核鉄(IV)錯体3を検出すること,およびその反応性を明らかにすることを目指した.2および3を単離した固体を用いて25Kで測定したメスバウアースペクトルから,high spinパーオキソ二核鉄(III)錯体2とhigh spinトリオキソ二核鉄(IV)錯体3に帰属される2つの四極子分裂を観測した.sMMOの活性種Qは高スピン二核鉄(IV)と考えられているが,モデル化合物で高スピン状態の二核鉄(IV)錯体を得た例は全くない.さらに,sMMOのメスバウアースペクトルはPとQを同時に観測しているが,これまでのモデル化合物を用いた研究では,中間体Pに対応するパーオキソ二核鉄(III)錯体と活性種Qに対応する高原子価二核鉄(IV)錯体を同時に観測した例もない.本研究では,(1)高スピン二核鉄(IV)錯体を検出し,(2)中間体Pと活性種Qに対応する錯体を同時に観測した.この2点において,sMMOの分光学的・磁気的性質に極めて類似した機能モデルの開発に成功したといえる.これらは,従来のQのモデル化合物の研究と比べて優れた特徴である.さらに温度を上昇させてメスバウアースペクトルを測定したところ,錯体2の成分が減少して3の成分が増加した.同一のサンプルを用い,再び温度を25Kに下げて再測定すると,錯体2が増加して3が減少し,最初に測定したスペクトルをほぼ完全に再現した.この事実から,2と3は温度変化に伴って可逆的に相互変換する事がわかった.錯体2は,低温で安定であり,温度上昇に伴ってO-O結合が切断され,3へと変化していると考えられる.これは,モデル化合物を用いてパーオキソ二核鉄(III)錯体からトリオキソ二核鉄(IV)錯体への変換を分光学的に直接観測した初めての例であり,sMMOのPからQへの変換機構に新たな知見を与えるものとして重要である.
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