2011 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍組織における微小環境の変化に連動した癌の浸潤形質獲得機序の解明
Project/Area Number |
21370092
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
橋本 茂 北海道大学, 大学院・医学研究科, 准教授 (50311303)
|
Keywords | 乳癌 / 癌浸潤 / Arf6 / AMAP1 / EMT / エピジェネティクス / ポリコームグループ蛋白質群 / EZH2 |
Research Abstract |
本研究は、低酸素下での乳癌の浸潤形質獲得機序とGEP100-Arf6-AMAP1シグナル経路との関連性を明らかにすると共に、低酸素環境とEMTとに共通した浸潤形質の誘導に必須のエピジェネティックな分子機序を明らかにし、GEP100-Arf6-AMAP1シグナル経路との関与の普遍性や固有性を解明することを目的とする。当該研究期間において、低酸素環境やEMT誘導よって、GEP100-Arf6-AMAP1経路がc-Met/HGFレセプターを介して活性化されることを見出し、同時に、GEP100がアダプター分子GAB1を介してc-Metに相互作用する新たな作用機序を見出した。最近、GAB1の関与が知られているサイトカインIL-6のシグナル伝達経路が乳癌幹細胞の幹細胞性の維持に必須であることが報告されていることなどから、GEP100-Arf6-AMAP1経路が、低酸素環境やEMTによる癌細胞の浸潤形質及び幹細胞様形質獲得に関与する多様なシグナル伝達によって活性化される可能性が示唆された。CD44+/CD24-高浸潤性乳癌細胞において、Arf6やAMAP1の蛋白質発現量の亢進を見出した。その機序に関連して、低酸素環境やEMT誘導による浸潤性誘導に伴って、胚性幹細胞の維持に必須のエピジェネティック因子EZH2の遺伝子発現が共通して亢進すること、さらに、その発現を抑制することにより、Arf6、AMAP1の蛋白質発現量が減少することを見出した。これまでに、EZH2の発現が乳癌の悪性度進展に相関すること、CD44+/CD24-高浸潤性乳癌細胞でその発現が亢進すること、癌幹細胞様形質の維持に関与することが報告されていることから、EZH2がGEP100-Arf6-AMAP1経路を構成する分子群の発現を誘導することによって癌幹細胞に浸潤形質を誘導する可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
細胞レベルでの研究実施計画は順調に進み、癌浸潤形質獲得に関する新しい分子機序の提示を進めることができたが、乳癌マウスモデルを用いた乳癌の浸潤・転移活性とGEP100-Arf6-AMAP1経路との関連性の検討が遅れている。条件付きGEP100遺伝子欠損マウスと乳腺特異的にCre遺伝子を発現するWap (whey acidic protein)-Creマウスとの掛け合わせに関して遅れを生じたことが主な理由である。現時点で、第1世代の掛け合わせマウスが生まれてきたので順次解析を進める。
|
Strategy for Future Research Activity |
GEP100とGab1との結合様式について詳細な解析を進め、低酸素下やEMTにおけるその他の乳癌細胞の浸潤形質獲得との関連性を検討する。EZH2が、高浸潤性乳癌細胞において、Arf6、AMAP1の蛋白質発現量を抑制する分子機序を明らかにすると共に、EZH2そのもの制御に関わる候補分子の絞り込みを進める。さらに、EZH2を介したstemnessの誘導とGEP100-Arf6-AMAP1シグナル経路が担うinvasivenessとの関連について検討を進める。乳癌モデルマウスを用いて低酸素下でArf6活性化に関与することが示唆されたGAB1やEZH2などの分子群について、低酸素領域と浸潤・転移部位での発現分布を調べると共に、昨年度までに構築した乳腺特異的GEP100遺伝子欠損マウス(Wap-Cre/GEP100-K0)と乳癌モデルマウスとを掛け合わせ低酸素領域の形成と浸潤・転移活性へ与える影響を検討する。
|