2012 Fiscal Year Annual Research Report
ポストゲノム時代におけるカイコランダムミュータージェネシスとその基盤研究
Project/Area Number |
21380036
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伴野 豊 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50192711)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 公子 独立行政法人農業生物資源研究所, 農業生物先端ゲノム研究センター, ユニット長 (40370689)
横山 岳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20210635)
|
Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | カイコ / 突然変異 / クワコ / ランダムミュータジェネシス / SNPSマーカー / 凍結保存 / 単為発生 / ポストゲノム時代 |
Research Abstract |
1、変異個体のスクリーニング(九州大学:伴野 豊)産卵後10時間以内の卵に対し、ENU濃度が約6mMから100mMの範囲で5段階、15分間の浸漬処理を行なった後代を基本的に1蛾育を行い、形質調査を行った。G2世代から変異形質が検出され始め、現在10数形質が有望な変異体として確立されつつある。予想結果よりも多くの変異形質を得ており、カイコにおいてENUはランダムなミュータジェネシスを起こす変異源として有望であることが示唆された。3齢期を中心に致死する変異体、卵サイズが小さくなる変異、ヒトがカイコに触れると吐液をする変異体等、既存にはない新たな形質を認めている。 2、SNPsマッピングによる変異遺伝子のマッピング(農業生物資源研究所:山本公子)九州大学で自然突然変異体として発見された2種の独立の油蚕変異体についてSNPs情報を基に所属連鎖群を検索した結果、1系統は第7連鎖群に所属することが明らかになった。もう一つの油蚕変異体については、候補連鎖群を7群にまで絞り込んだ。 3、変異体系統の長期保存体制の構築(九州大学:伴野 豊)精巣を利用した長期保存方法の可能性について検討した。卵巣に比べ成功率が低く数%の成功例に過ぎない系統が多かった。しかし、2齢期から3齢初期に移植処理を行なうと系統によっては8%程の個体が正常雄に遜色の無い個体として蘇生することができた。 4、単為発生、倍数体利用による個体再生に関する研究(東京農工大学:横山 岳)カイコの卵を用いた単為発生では多くの場合は雌のみが誘発されるが、雄を誘発することは難しいとされていた。しかし、炭酸水を処理に用いることで雄も誘発されることが判明した。 5、クワコの遺伝変異の活用(九州大学:伴野 豊、東京農工大学:横山 岳)隠岐の島に生息するクワコ集団は幼虫サイズが大きく、卵サイズも大きいことが形質調査から見出された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1、突然変異誘発に関しては使用するENUの使用出来る施設が都合により閉鎖された為に進展が遅れていた。しかし、昨年度から安定的に使用が可能となり、ランダムミュータジェネシス実験が可能となった。劣性遺伝子支配の表現型はG2世代から発見出来る為に、成果は本年度に持ち越されていたが、予想以上の効果があることが判明し、既存のカイコ突然変異体には見られない新規なフェノタイプを持つミュータントがを系統化することができた。実験規模を広げれば広げる程新たな変異を発見出来ることは明らかである。従来の化学変異源に比べてもその誘発頻度は高いと思われるが、この点については追試実験とその頻度を明らかにする必要である。 2、カイコの場合、新たなリソースが増えた場合にはその系統維持には毎年の飼育が必須であるので、大規模なミュータントを誘発する実験においては長期保存方法の確立が不可避である。これまでの研究で卵巣凍結は可能となっていたが、雄側の生殖細胞も残す必要があった。その点、今年は凍結精巣利用が可能性があることを確認できた点は進展である。また、凍結卵巣から回収した卵を単為発生させ、雌雄の個体を得ることが出来る新規方法を認めた点も大きな進展であった。 3、クワコに形質変異があることもこれまでにはあまり報告例がなかったが、隠岐の島で幼虫、卵のサイズが大きいクワコ個体が発見された。 以上から今年度は計画を上回る進展があると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1、突然変異体の系統化を進めると同時に共同研究者(山本)と連携して、SNPS解析によって所属連鎖群を明らかにする。類似する変異形質については相互の遺伝的異同を明らかにする交配試験を行う他、誘発を試みた原系統の中に類似する形質が潜在していないか精査する。反復した変異が多いので、原系統に変異形質が既存していた可能もあるのでこれを明らかにする。昨年度飼育スペースの都合で形質調査を行えなかった処理系統後代を飼育を行い形質調査を実施する。新たに卵に対してENU処理を行ないG2世代まで飼育を進め、新規変異体の開発を行う。 2、遺伝解析の済んでいない変異体についてはSNPS解析によって所属連鎖群を明らかにする。これと当時に連鎖群が判明している変異体については遺伝子の位置を絞り込む。ENUによって生じている塩基置換の頻度について明らかにする為、遺伝的純度の高い系統において塩基置換率を調べる。 3、凍結精巣の技術開発を進める他、昨年度雌雄の両者を産生する可能性が示唆された単為発生方法の追試を行なう。凍結精子を利用した長期保存では、雌個体へインジェクションした後の精子の行動性が重要であるので、その基礎的知見を得る為に、雌個体内における精子の動態をモニタリングする。 4、隠岐の島で見出された大型クワコの変異形質について遺伝性を明らかにすると共に島根県側の個体群との異同を明らかにする。また、自然界のクワコの変異形質の収集を行ない、新たなリソースとして保存する。
|