Research Abstract |
平成23年度は,平成22年度に病院の現場に専門職学生グループを派遣するインタープロフェッショナル臨地実習(以下,IP臨地実習)の実施準備として行なわれたフォーカスグループ・インタビューの結果を受けて,実際に2つの回復期リハビリテーション病院においてそれぞれ3日間のIP臨地実習が実施された。IP臨地実習では5つの専門職によって構成された学生グループが2つの臨床実習施設(以下,施設AとB)でそれぞれ複数の患者を担当し,専門職の"連携の実態"と"臨床サービスの質"について調査するための評価リスト(臨床連携評価シートβ:以下,シートβ)を基盤としたインタビュー調査によって実施された。同時に各施設では患者調査の結果を受けてファシリテータ役の専門職5名との討論が行われた。次に施設AとBに勤務する12名の専門職にシートβによる調査が実施された。以上の調査結果に総合的な検討を加えたことで,患者サイドの考える「臨床の質」「医療サービスの質」のコア概念と,臨床で勤務する専門職側のコア概念一覧表が作成された。これらは,シートβに基づくキーとなる単語抽出結果であるが,さらにデータを質的帰納法でカテゴリー化しデータ間の比較検討を加えた。 次に英国から研究者1名(Helena Low 教授;Executive Director, CAIP:英国連携教育推進センター)を招へいし3日間のデータ検討研究会を実施した。研究者5名が参加して行われた研究会では,これまでの病院アンケート結果(H21年度)と臨床施設におけるシートβの結果,およびインタビュー調査のカテゴリー化されたデータ(H23年度)を総合的に整理して,わが国の文化と医療保険制度,国民の特性,とくに習慣的および思考的な特徴を客観的に把握するため,英国の同じようなデータとの相互比較を行った。以上の結果より以下,病院の質的評価に係わる複数の概念が示された。 (1)わが国の臨床現場(病院)で考えられている"病院の質"とは,提供する施設側のサービス概念が一般的なものとして通っている。サービスの受け手である"患者が考える病院の質"は,個別性が強すぎるため,通常は般化されにくい。その結果,サービス提供側と受け手側において概念の大きな乖離が生じている。(2)一連のデータ分析の結果,現在,一般化されている"医療サービスの質"のフレームワークは,サービスの受け手である患者に伝えられて"サービスの選択肢"が生じ,そこからサービス提供者と受け手の相互関係が生じるが,実際の臨床施設では,そういった手続きが生じにくいシステムが構築されている。つまり,専門職間の連携協働をうまく促進できない形骸化した組織とは,サービス提供側と受け手側の満足感がそれぞれ乖離して先行している可能性が示唆された。
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