2011 Fiscal Year Annual Research Report
民俗信仰と創唱宗教の習合に関する比較民俗学的研究-仏英の五月祭の調査を中心に-
Project/Area Number |
21401044
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
関沢 まゆみ 国立歴史民俗博物館, 研究部, 教授 (00311134)
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Keywords | 五月祭 / 五月の木 / ヴァハージュ(Varages) / 民俗信仰 / A.V.ジェネップ / サンテチエンヌ・ドゥ・ティネ(Saint-Etitnne-de-Tinee) / アイデンティティ / 観光化 |
Research Abstract |
今年度は、現在も「五月の木」の行事を行なっているプロヴァンス地方のヴァハージュ(Varages)、コートダジュール地方のサンテチエンヌ・ドゥ・ティネ(Saint-Etienne-de-Tinee)の現地における情報収集のほか、アルザス地方のエッシュバッハ(Eschbach)、ランジェン(Rangen)、ロスフェルド(Rossfeld)などの町や村における五月の祭りの伝承についての調査を行なった。その結果、第一に、ヴァハージュの五月の木は6月最初の週末に若者たちによって聖人サンホタンをまつる山上のシャペル立てられるが、このシャペルはかつて子授けを願う若い男女が訪れた場所で、この五月の木の行事の背景にも民俗信仰としての性信仰が存在したことが注目された。サンテチエンヌ・ドゥ・ティネで4月30日と5月1日の間の夜、18歳の徴兵年齢になった若者たちによって町の中央の広場に立てられる「五月の木」の行事には、樹皮をむいてツルツルにした高さ20mのモミの木に次々と若者たちが登って頂上のロープをとらなければならないことになっており、そこには宗教的な側面はみられず若者の試練としての意味が色濃くみられた。 これまでの調査期間に「五月の木」を立てる行事を4カ所で確認することができたが、この「五月の木」には、春の季節と若者たちをめぐる性的豊饒祈願だけでなく若者の試練、という意味が付されていることが明らかになった。第二に、アルザス地方の調査では、ジェネップの資料集成に五月の行事が行なわれていたと記述がある村や町における現在の伝承の確認を行なったが、その結果、伝承の維持継承と喪失消滅の要因や背景として、5月の行事に郷土へのアイデンティティを見出し同時に伝統行事が町のアイデンティティの維持更新のために有効であることに自覚的でかつ実践力のある人物(リーダー)の歴代の有無が関係し作用していること、がその特徴として注目された。第三に、昨年度までのイギリス、コーンウォール地方の調査結果をまとめ、フランスの調査事例との比較、分析を行なった。イギリスでは現在も盛んに五月の木馬祭が行なわれており、観光化の促進という聖俗混淆の動態が英仏間で対比的にとらえられた。
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