2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21402010
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
村瀬 信也 上智大学, 法学部, 教授 (80062660)
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Keywords | 国際環境法 / 気候変動 / オゾン層破壊 / 越境大気汚染 / 「大気の保護」 / 国連国際法委員会 / 国際法協会 |
Research Abstract |
気候変動をもたらす科学的要因が越境大気汚染やオゾン層破壊をもたらす要因と相互に密接に連関していることから、気候変動の将来枠組構想として、気候変動問題を個別に扱うのではなく、気候変動、越境大気汚染、オゾン層破壊の問題を「大気の保護」として包括的に扱う国際法枠組を検討している。既存の条約はこれらの問題を別個に扱うにすぎない。また、気候変動関連条約は主要排出国が加入しないまま政治的対立が続き、実効的な将来枠組を示すことができていない。こうした状況において、各国の現実的状況を確認しつつ、すべての国家を拘束し、包括的に「大気の保護」を扱う一般国際法について明確化すること急務であると考えられる。 「共通だが差異ある責任」「衡平」「持続可能な発展」といった法原則については、既に国際法協会(ILA)「気候変動に関連する法原則」に関する国際委員会(委員長:村瀬信也)第一報告書にて纏めているところ、本年度は、「汚染者負担原則」「予防原則と防止原則」「信義誠実の原則」等の性質、内容、法的地位について、本年8月のブルガリア・ソフィアでの総会に提出する第二報告書を纏めた。ハーグ、中国等での在外調査では、同委員会の報告者を務めるLavanya Rajamani教授をはじめ、各国の環境法専門家や国際法専門家とワークショップを行い、意見交換、内容の検討を行った。 「大気の保護」として包括的に扱う場合には、これら具体的な法原則を適用する前提として「大気の定義」「適用範囲」「大気の法的地位」を明確にする必要がある。本年度、委員を務める国連国際法委員会(ILC)において、筆者の提案する「大気の保護」に関する国際法の法典化が正式に同委員会のプロジェクトとして採用されたところ、これら内容を検討し条文化した第一報告書及び暫定コメンタリーを纏めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
国連国際法委員会(ILC)において既に提出した「大気の保護」暫定報告書、及び、本年提出する予定の「大気の保護」第一報告書において、大気の性質、法的地位、法的定義の検討を終えている。また、国際法協会(ILA)において提出した第一報告書、及び、本年提出する予定の第二報告書において、共通だが差異ある責任、衡平、持続可能な発展、予防原則、防止原則、信義則、汚染者負担原則等の原則についても一応の検討を終えている。
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Strategy for Future Research Activity |
検討課題としては、挙証責任、国家責任、紛争処理といった問題が残されている。挙証責任の問題は、防止原則/予防原則とも密接に関連するが、環境損害の防止または予防を主張する側がどの程度、将来起こりうる環境損害の可能性または蓋然性について科学的に証明すればならないか、という証明基準の確定が必要とされる。国家責任の有無は、この挙証責任の問題にかかってくる。また、紛争処理の問題は、気候変動の影響を受ける国が全世界に及ぶため、国家間の争訟事件の場合には原告適格の問題が鍵となってくる。また、国際機関の諮問する勧告的意見の利用についても検討する必要がある。
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