Research Abstract |
本研究は,通学や買い物,旅行の際に用いる荷物の運搬方法の違いによる下肢の関節や脊柱への影響を,運動力学的に分析することで,関節に負担の少ない持ち運び方を提示することを目的としている.本年度は,主に床反力および筋電図の分析から重量物の運搬方法の違いによる,歩行中の重心移動や下肢・体幹の筋活動に及ぼす影響を調べた.健常成人8名を対象とし,床反力計が設置された歩行路で,無負荷での歩行と体重の20%に相当する重量物を負荷した歩行を実施した.運搬方法として,「両肩で背負う」,「(前方で)両手で抱える」,「右手でさげる」,「右肩にかける」の4種類を設定した,筋電図は,左右の脊柱起立筋,中殿筋,外側広筋の計6筋を計測した.重心移動(変位)は床反力を2回積分法にて算出し,さらに重心のエネルギー変化量から重心移動に必要な仕事量を算出し,無負荷時と各運搬方法間で比較した. 重心移動では「両肩で背負う」方法において,上下の移動幅が無負荷時と比較して有意に大きかった。一歩行周期中の仕事量では「両肩で背負う」方法と「右肩にかける」方法で無負荷時より有意に大きな値を示した. 筋活動に関しては,「両手で抱える」方法では無負荷時の約2倍の筋活動を示した.「右手でさげる」方法では,バッグと反対側の脊柱起立筋と中殿筋,およびバッグと同側の外側広筋の筋活動が有意に増大した,「右肩にかける」方法では,バッグと反対側の中殿筋の活動が有意に増大したが,右手でさげる方法に比べてその増加量は小さかった.さらに,左右の外側広筋の活動も有意に増大した.今回の研究結果から,股関節のみならず,同側の膝関節伸筋活動が有意に増加することが分かった.また,両手で抱える方法や片手でさげて運搬する方法は,両側または対側の脊柱起立筋の活動を大きく増大させ,当該関節に大きな負荷が加わることが示唆された.
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