2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520020
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
八幡 英幸 熊本大学, 教育学部, 教授 (70284718)
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Keywords | 倫理学 / 語り / 生命倫理 / 思想史 / 判断力 |
Research Abstract |
本年度、【理論面】で主に取り組んだのは、倫理的思考のどのような局面で物語あるいは「語り」への参照が不可欠なものとなるのかという問題である。論文「倫理学における判断力の問題(序説)-普遍化可能性と特殊性-」(『熊本大学教育学部紀要』59巻所収)では、倫理学上の普遍主義が反省的判断力の機能を不可欠なものにすることを解明したが、この論点はさらに物語あるいは「語り」の位置づけにも関係する。また、本年度公刊された論文「医学的介入の論理と障害の概念-「何もしないより、何かよいことをしたほうがよい」か-」(高橋隆雄・北村俊則編『医療の本質と変容』所収)では、障害を持つ人の誕生の問題に関連して、当事者の「語り」の中に生命倫理のあり方の見直しを迫る契機が存在することを明らかにした。さらに、近日公刊される『カントを学ぶ人のために』(世界思想社)所収の論文「人間学-道徳哲学との関係を中心に-」では、現代の倫理学においても課題となっている人間学と倫理学の関係を検討したが、この課題も物語倫理の位置づけに関連する可能性がある。 他方、【実践面】の課題である「語り」の収集については、地域のNPO(自立生活支援センター)の協力の下、出生前診断などの生命倫理問題に関連するライフ・ストーリーを持つ人へのインタビューを実施してきたが(対象としたのは、脳性マヒ、進行性筋ジストロフィー、ウェルニッヒ・ホフマン病、小児麻痺、パーキンソン病などに起因する障害を持つ人々)、本年度はこの作業の成果を分析のための暫定的報告書「Narrative Practice 2007-2010:障害も持つ人の誕生をめぐる「語り」」(非公開)にまとめた。今後は【理論面】の作業をふまえつつ、その分析の段階に進む予定である。
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