2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520020
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
八幡 英幸 熊本大学, 教育学部, 教授 (70284718)
|
Keywords | 倫理学 / 語り / 生命倫理 / 思想史 / 判断力 |
Research Abstract |
本年度、【理論面】【思想史面】で主に取り組んだのは、(1)物語の人間にとっての意義及びその成立要件の検討、(2)P.リクール以降、度々指摘されている物語と判断力との関係の明確化、そして、(3)これらが倫理学にとって持つ意義の検討という三つの課題である。このうち(1)と(2)の課題については、論文「倫理学に診ける判断力の問題(続)」で概略以下のような見解を示した。すなわち、物語は、(1)二つの異種的秩序(時間的秩序と非時間的秩序)を結合するものであり、(2)何らかの偶然的要素を契機として生成し、(3)人間の自己理解と自己同一性を可能にする。他方、カント的意味での判断力にも、(1)二つの異種的秩序(自然の秩序と自由の秩序)を媒介するものとして、(2)様々な偶然的要素を秩序に包摂する一方、(3)ある種の快の感情によって導かれる、といった性質が認められる。物語と判断力のあいだには、(1)と(2)の点では明白に、(3)の点でも深い関連がある。また、(1)の課題については、いまだ素描的な段階ではあるが、前年度から継続執筆中の論文「倫理学における判断力の問題」や、『カントを学ぶ人のために』所収の論文「人間学-道徳哲学との関係を中心に-」で、倫理的なものと物語的なもの(判断力の領野、人間学)とのあいだにある複雑かつ緊張に満ちた関係を描き出すことに成功しつつある。 他方、【実践面】の課題である「語り」の収集・分析については、これまでに行った聞き取りの内容まとめた報告書「障害を持つ人の誕生をめぐる「語り」」(非公開)の分析に進む予定であったが、分析の視点がなかなか定まらなかったことから、この方面ではあまり成果を上げることはできなかった。そのため、今後この分野(障害を持つ人の誕生に関する生命倫理)での「語り」の分析の視点を確立するための手がかりとして、これまでの研究経過の総括として「生命倫理と語りの諸相-研究経過報告」を作成した。
|
Research Products
(4 results)