2011 Fiscal Year Annual Research Report
社会的基盤としての自覚的公民形成のための哲学・倫理学研究教育に関する総合研究
Project/Area Number |
21520026
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
木阪 貴行 国士舘大学, 文学部, 教授 (10183790)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野津 悌 国士舘大学, 文学部, 准教授 (20325997)
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Keywords | 倫理 / 理性 / 弁論術 / 宗教 / 公民 / 霊魂 / 夏目漱石 / ニーチェ |
Research Abstract |
最終年度である本年度は、哲学・倫理学研究教育へのアプローチを特に宗教教育との連関という観点から深化させることとなった。これには、大学における教育実践とともに高校現場における教育実践との連携を強化する中で、ある種の閉塞感にもかかわらず、どうしようもない不幸に対しても、素朴ながら本質的に深いところで反応する人間的資質を高校生から大学生の若者に確認できるということが、教材開発とその授業実践の試みの中で明瞭になってきたことによる。 具体的には、カントを基礎にした理性と宗教との関係を巡るテーマをニーチェの宗教否定の思想と比較対照して考えさせる教材を開発し、富山県の県立高校で実際に授業展開をしてこれを試してみた。この成果を踏まえて、富山大学で開催された日本倫理学会第62回大会ワークショップ「初等・中等教育に対する倫理学の貢献可能性」において発表した。大学学部生のためのシンポジウムによる教材開発も進めた。 またこれに先立ち、理論的研究において、霊魂不死に関するカントの立場と関連して、いわゆる外界存在問題を巡るカントのテキストを精読する研究を行い、日本カント協会WSや、合宿を伴う研究会で関連テキストを読み、議論している。意識とその外の物質の実在を巡る問題は、不死の霊魂-自己意識の実体性をカントがどのように論じたかということに関わり、カントの霊魂不死要請論を通して宗教の理性的基礎に関わっている。宗教教育における理性と信念の問題は上のカントに即した教材開発の基礎となった。 さらに、日本人の宗教意識を踏まえた教材開発と実践的研究のために高校国語科で定番教材である夏目漱石の『こころ』における罪の問題を掘り下げ、宗教的倫理と近代日本的罪悪観とが交錯するところで「倫理」と「国語」双方にかかわる教材開発へと道を開き、これを展開しつつある。『こころ』については兵庫県神戸市の私立高校の国語科教員の協力を得て、国語の授業で倫理的観点から問題を考察させ、その結果を小論文に書かせる等により蓄積しつつある。
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