2011 Fiscal Year Annual Research Report
対話的理性と構想力-ハーバーマスにおける批判理論の新たな展開のために
Project/Area Number |
21520082
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木前 利秋 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (40225016)
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Keywords | 対話的理性 / 構想力 / 批判理論 / ハーバーマス |
Research Abstract |
本研究では、第一にハーバーマスの批判理論におけるコミュニケーション的合理性の概念の意義を明らかにし、とりわけ「表象なき実在論」と「弱い自然主義」という理論的な立場が、これまでの理論的発展の帰結として出てきた経緯をさぐること、また第二に、ハーバーマスの理論をあらたな方向に発展させるための手がかりとして構想力のあり方について考察することを、研究の目的にしてきた。このため、前年度までは、ハーバーマスの市民的公共圏、行為の理論、反省概念などをテーマに取り上げて、彼のコミュニケーション的合理性の理論的意義を明らかにしてきた。これに対し、二三年度では、彼の言語と自然の概念を取り上げて、対話的理性と構想力との関連をめぐるテーマに、一定の結論を与える試みをおこなった。自然観にかんしては、従来の見方では、理性と自然、自由と自然とが二分され対立関係に置かれがちだったのに対し、ハーバーマスの自然観にはこうした見方に収まらない微妙な揺れがあり、単純な二分法に収まらない理性と自然との関係が模索されている事実を探ってみた。とりわけ1990年代以降、ハーバーマスはアドルノの衣鉢を継いで、「自然との絡み合いのうちにある理性」をスローガンに立てるようになる。弱い自然主義の立場が、もっともはっきりしたかたちを取るようになったのが、このスローガンである。また言語観にかんしては、従来、言語をコミュニケーションの次元から捉えるのがハーバーマスの言語観だとされてきたのに対し、言語には、もう一つ、世界開示の次元がある点を強調し、この両次元が対話的理性と構想力の関連を告げるものであることを明らかにした。いずれも理性や合理性の立場で一括りされがちのハーバーマスの考えに対して、それだけに収まらない理論的広がりを探り出すことができた。
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