2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520247
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
前川 玲子 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30190292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若島 正 京都大学, 文学研究科, 教授 (10175060)
加藤 幹郎 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60185874)
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Keywords | 亡命知識人 / アメリカ知識人 / ウラジーミル・ナボコフ / 映画学 / 越境 / 戦後アメリカ / 冷戦 / 亡命作家 |
Research Abstract |
本研究は、1930年代に亡命者としてアメリカに渡ったヨーロッパ系知識人たちが、第二次世界大戦後にアメリカ社会・文化との葛藤、対話、交渉などを経て、独自の学問研究および創作活動を行っていく過程を検証するものである。国家、言語、文化、学問領域の越境と相互浸透の過程で、異種混淆的で斬新なスタイルが生み出されていく経過とその背景を、思想、文学、映画学という三つの側面から分析した。 研究代表者の前川は、アメリカ学会の反知性主義に関するシンポジウムで、ホーフスタッターらのアメリカ知識人がアドルノやフロムなどの亡命社会科学者から受けた影響関係に光を当て、亡命知識人のマルクス主義的な社会学的知見とフロイト主義的な精神分析的知見をアメリカの歴史家および社会学者が受容していった経過、さらに亡命知識人がナチズムの研究から発展させた大衆文化論がアメリカでいかなる変容を遂げるかを分析しようとした。同時に、南部の大学で教鞭をとった知られざる亡命知識人の生き方や思想に焦点を当て、亡命知識人研究の幅を広げることを目指した。 文学の分野では、若島が、昨年3月の京都開催のナボコフ国際学会における発表を日本語にまとめたものを、共編著書『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』に収録された論文「『ロリータ』と英国大衆小説」として発表した。また、今年の1月にニュージーランドのオークランド大学で開催されたナボコフ国際学会において、ナボコフの生前は発表されなかった未完の長編『ローラのオリジナル』からナボコフの著作全体を見返すという視点に基づいた研究発表を行った。また、招待講演4件を含めた7件の学会発表において、本研究のキーワードでもある「越境」とナボコフの創作活動との有機的関係に迫った。 映画学の分野では、加藤が、日本映画学会会長としてアメリカ映画研究を推進し、アメリカの映画史の中で重要な歴史的役割を担った亡命知識人にも光を当てた。とりわけ2011年度は、1900年代初頭から1950年代末までのアメリカ映画の主要ジャンルであった「西部劇映画」と、世界映画史において最初期(1895年)から20世紀を経て21世紀にいたるまで変遷し続けている広義のジャンル映画としての「列車映画」との関係を、アメリカの近代技術と文化および西部開拓史の相互連関、さらに芸術映画と大衆文化の観点から分析した。 2011年度が本研究実施の最終年度にあたることから、研究代表者と分担者は、こうした個別の研究を踏まえながら、戦後の亡命知識人が、アメリカ知識人および大衆社会に対して親和と反発のアンビバレントな関係をもちながら、逆にその周縁的で批判的な視座故にアメリカの論壇、文壇、映画の常識を破るような新たな分野を開拓していったことに関して、それぞれの知見を交換し、個別研究の相互深化を図った。
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Research Products
(15 results)