2009 Fiscal Year Annual Research Report
近世フランス文学における自己言及性の諸様態とその射程
Project/Area Number |
21520336
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
石川 知広 Tokyo Metropolitan University, 人文科学研究科, 教授 (50145645)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大久保 康明 公立大学法人首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (70168897)
小川 定義 公立大学法人首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (40268967)
藤原 真実 公立大学法人首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10244401)
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Keywords | 仏文学 / 仏語 / 自己言及性 / 近世 |
Research Abstract |
1. 研究課題に沿い、フランス語が、すでに中世フランス語の時代から、思考、文芸、学術の言語として豊かな成長を遂げたのち、ついに近世フランス語に至って、自らの言語を内省し、その特質を照らすようになる足跡を、おもに言語学的な側面から探る準備を行った。(小川) 2. モンテーニュ『エセー』における「自省」の文学化は、書く主体としての作家の絶えざる自己参照・言及を介して、教養としての古典古代と同時代(16世紀)が生き生きと切り結ぶ稀有の地平を切り拓いた。モンテーニュ的「教養」とは、書庫に収蔵され埃に埋もれた過去の知識ではなく、古典古代からルネッサンスに至る地中海=ヨーロッパ世界の自己反照活動の生きた現場であり、やがてヨーロッパ的知が到達することになる文化的普遍性の揺籠であった。(大久保) 3. 自己言及性は、言語文化の面では先ず自国語の価値に対する尖鋭な意識としてあらわれる。文法書、辞書の自覚的産出と制度化の動きは、そうした強烈な文化的自意識の反映にほかならない。その意味で、王権によるアカデミー・フランセーズの成立と、言語純化・規範化の強力な推進政策(17世紀)は、フランス社会の自己意識の顕著な社会的表現であり、そこに自己鏡像=理想化の典型を見ることができる。(石川) 4. 18世紀におけるブルジョワ演劇の隆盛と百科全書(フィロゾフ)の成立は、ともに、成熟期を迎えた市民社会の自己反照的契機をなすものである。フランス革命を、カタストロフにも似た社会の自己言及性の激越な露頭のひとつとして理解することは興味深い視点を提供する(藤原)。
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