2009 Fiscal Year Annual Research Report
環太平洋における東アジア系ディアスポラ戦後文学の関係史的研究
Project/Area Number |
21520363
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
李 孝徳 Tokyo University of Foreign Studies, 大学院・総合国際学研究院, 准教授 (90292721)
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Keywords | 比較文学 / 移民史 / ポストコロニアル / マイノリティ / アジア系アメリカ文学 / 日系 / 人種政治 / 環太平洋史 |
Research Abstract |
本研究「環太平洋における東アジア系ディアスポラ戦後文学の関係史的研究」の目的は、これまで各国語・各国民文学においてマイノリティの文学として周縁化されてきた、環太平洋地域における東アジア系(日系、朝鮮系、沖縄系)ディアスポラの戦後文学作品を、地政学的、国際政治的に密接に結びついた関係史的な観点から分析・考察し、今日のグローバル状況下の先進諸国ではむしろ確固たるジャンルとなりつつある「移民文学」や「ディアスポラ文学」のダイナミクスが提示されたものとして読み直すことで、その今日的意義を歴史的かつ理論的に評価し直しつつ、そのためのアプローチ、記述方法、理論的な枠組みを新たに提示しようとするものである。 平成21年度の調査では、日系アメリカ人の文学作品、あべよしお『二重国籍者』(1972年、東方出版社)を対象に、本作品が日本と米国において移民=マイノリティの歴史として位置づけられている日系アメリカ人の戦前・戦中の歴史を、徹底的に事実に忠実でありながらも小説というフィクションにすることで、20世紀の帝国主義、植民地主義、人種主義の輻輳する環太平洋の関係史の結節点として描き出すことを可能にしたことを明らかにした。本研究では、これまでマイナーな小説としてしか理解されてこなかったこの小説が、上述の視点を提示していることで、いわゆるアジア系アメリカ文学や日系文学といった文学ジャンルにおける意義を超えて、国民史を前提にした従来の歴史観に対する稀有な異議申し立てになっていることをはじめて論じたものである。また、その際のアプローチは文学研究や歴史学、社会学などを横断する学際的なものであり、これまでの文学研究・文化研究にはない新たな取り組みを開示したものである。
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Research Products
(1 results)