2011 Fiscal Year Annual Research Report
近世以降の農業水利事業規模の数量的把握と水利慣行の存続・変容の経済学的分析
Project/Area Number |
21530348
|
Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
勘坂 純市 創価大学, 経済学部, 教授 (20267488)
|
Keywords | 農業水利 / 日本近世 / 耕地面積 / 新田開発 / 水利慣行 |
Research Abstract |
近世日本における農業水利事業のデータベースの作成を引き続きすすめ、総計244.2千町歩の拡大耕地を入力することができた。しかし、残念ながら、近世日本の耕地拡大のすべてをこれによって明らかにできたわけではない。従来、1578年、1873年の耕地面積は、それぞれ2,106.7千町歩、3,234.4千町歩と推計されているので、近世に1,127.7千町歩の耕地が拡大したと考えられる。データベースに記録された耕面積は、その21.7%に過ぎない。 可能な限り網羅的にデータを入力してきただけに、このパーセンテージは予想外の低さであった。もちろん、さらにデータの入力を進めれば、この割合は増加していくと考えられるが、50%を超えることは困難ではないかと予測される。しかし、この事実は、「新田開発」の記録としては残りにくい持添(切添)新田(開村耕地の延長というかたちでの新耕地)という形態での耕地拡大が、非常に多かったことを逆に証明しているといえるのかもしれない。その結果、持添(切添)新田の増加をどのように評価するかが、今後、近世日本における耕地面積の拡大を推計るうえで重要であるということが明らかになったといえよう。今後の大きな課題である。 一方、水利慣行の存続・変容の経済学的分析については、生産要素に、土地、労働力とともに、「水」を加えてた農業生産モデルの構築を試みた。このうち、土地、労働力が、私的に所有されるのに対して、「水」は共同体によって管理される公共財である。「水」の重要性が極小化するのがヨーロッパ農業の特徴であり、各農民のリスク管理は、耕地の分散といった事前の取り決めによって行われる。これに対し、「水」が生産に大きな役割を果たすのが、わが国の共同体であり、そこでは、事後的な相互扶助が大きな役割を果たすことが明らかにされた。今後、各地域の農村共同体の実証研究と照らし合わせ名ながら、モデルの有効性をさらに検討してきたい。
|