2012 Fiscal Year Annual Research Report
新自由主義への抵抗運動の文化的位相:グローバル・ジャスティス運動と予示的政治
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21530515
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
澁谷 望 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (30277800)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会運動 / 予示的政治 / サブシステンス |
Research Abstract |
本研究は「グローバル・ジャスティス運動」と呼ばれる、新自由主義への新しい抵抗運動の特徴をとくに文化実践の側面(「予示的政治」の側面)から明らかにすることを目的とする。予示的政治とは運動を社会変革という目的のための手段と見なすのではなく、それ自体が来るべき社会を予示的に現出させているという実践であり、その点で従来の運動とは異なる文化的特徴を有すると思われる。 本年度は、昨年度に引き続き(1)理論的整理、(2)聞き取り調査、(3)運動言説の収集整理を予定し、一昨年度以降広まった日本における反原発運動や世界の諸都市で行われた「占拠運動」も調査対象に含めた。 (1)に関しては、アンジェリスの資本主義の〈外部〉に関する議論を参照することで、予示的政治の系譜の分析としての、マリア・ミースらのサブシステンス論/コモンズ論の両義性を分析し、サブシステンスの可能性を明らかにした。さらに東京で開催したシンポジウムでアンジェリス、ジョージ・カフェンティスとコモンズの両義性について議論した。 (2)に関しては、豪州のアウトノミスト活動家/研究者(デイヴ・エデン、ニック・サウスウェル)、ドイツのアウトノミスト活動家/研究者(ジョージ・ラッカス)らと、欧州、豪州、アジアのアウトノミスト運動について聞き取りをした。またオーストラリアの現在の反原発運動については、アレクサンダー・ブラウンに聞き取りをした。ニューヨークの占拠運動と反原発運動のネットワークについて高祖岩三郎らNYC在住アクティヴィストに聞き取りを行った。予示的政治の困難さがその際の焦点となった。また日本の反原発運動については官邸前アクションの支援者に、反グローバル運動については野宿者運動支援者にインタビューに行った。 (3)に関しては、(2)を受けて占拠運動の経験を踏また運動内部のコンフリクトに関する反省的な視点の資料を中心に収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的研究の側面では当初の計画以上に進展といえる。本研究は反グローバル運動のなかのアナキスト/アウトノミア的な運動の文化とその系譜を、予示的政治という観点から検討することが目的である。理論的には、マリア・ミースらのエコフェミニズムおよびサブシステンスの議論、シルヴィア・フェデリッチの本源的蓄積の暴力に関する議論を通じ、一方で、予示的政治の系譜を、コモンズ/サブシステンス/モラルエコノミー的実践のなかに確認するとともに、現在の反グローバル運動におけるその具体的な現われとして、フェミニズムの視点の前面化を確認することができた。このことは、「母性主義」として退けられた80年代の反原発運動における(エコ)フェミニストの関与を、反新自由主義/反開発主義観点からの再検討する新たな課題にも開かれている。 調査の観点からすると、おおむね順調といえよう。日本では2011年の原発事故によって従来の反新自由主義的なアウトノミスト的な潮流は、反原発運動へと争点の重心を変えるとともに、その争点は分岐/多様化した。それゆえたしかに当初の計画時(2008年秋)と比べて焦点は合わせづらくなった。しかし運動の「作風」(文化)に注目すると、「セイファー・スペース」の取り組みのように、「安全な」(=被抑圧的な)直接行動への参加や実質的に民主主義的な合意形成への配慮などが運動内部で注目され、そのやり方をめぐる議論がなされている点が明らかになった。「安全」と「合意形成」への同様の関心については、シドニー、ニューヨークのアクティヴィストへの聞き取り調査においても明らかになった。たとえば運動の言説における「ケア」(=他者の生命の配慮)や「マインド」(=他者の言葉への留意)という語の使用にこのことは現われている。 以上から総じて本研究課題はおおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究課題の最終年度に当たるので、調査のフォローアップに力点を置きつつ、研究課題の全体のまとめを行なう。
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