2011 Fiscal Year Annual Research Report
医療事故問題の構築とインターネットにおける公共圏の形成
Project/Area Number |
21530523
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
栗岡 幹英 奈良女子大学, 文学部, 教授 (20145155)
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Keywords | 医療事故被害 / インターネット・ブログ / 対抗クレイム / 被害の再生産 / 医療訴訟 |
Research Abstract |
本研究がめざしたのは、医療事故被害者と医療者他の他者との間で行われる集合的な相互作用の記述と分析である。当事者やその家族が医療システムの欠陥あるいは医療者側の人為的ミス等が主要な原因だと主張する医療「過誤ないし事故」事件について、医療者の側は必ずしも彼・彼女らに同意しない。とりわけ、一部の医師はインターネット上で医療被害者を「クレーマー」とみなして執拗な批判を行い、「医療崩壊」や「医療の限界」と要約される論理を展開する。ここに存在するのは、クレイム対退行クレイムの形式で生起する社会的紛争である。 この紛争は、退行クレイムの主体となった一部医師たちがインターネット上の「ブログ」でその主張を展開することによって、それまでの医療事故紛争とは異なる展開を示した。この論者たちは、可視化する方法や概念に合意が無く、関係者の認識の一致が難しいという医療事故の特殊性に無頓着に、自らの視点からのみ見解を表明する。それはきわめて一方的な判断であることがある。しかるに、インターネット・ブログはそのような問題点が明らかにならないまま、多数の読者を得る。とりわけ、立場を同じくする論者は、その一方的な議論をさらに増幅するかたちで自らのブログ上に展開することがある。しかも、それが間違いであっても、書いて読者を得たことの愛着から、容易に訂正しようとしない。このように、インターネソトには、粗悪な言説を集積し、再生産しているという面がある。 このような言説が、裁判のような「公平性」を追求する場を歪めることがある。ある弁護士は、裁判所に提出する書類に、インターネット上の明らかに事実誤認をした言説をそのまま記載した。 本研究は、インターネット上の言説が医療事故被害者に対して時としてきわめて深刻な被害を再生産するという事態を、具体的に明らかにした点に意義がある。インターネットが、かつてJ.ハバーマスの構想したような言説の「公共圏」という理念を裏切る場合があることを論証したのである。
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