2011 Fiscal Year Annual Research Report
EUにおける薬物政策の成立とその立案過程に関する社会学的研究
Project/Area Number |
21530535
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 哲彦 関西学院大学, 社会学部, 教授 (20295116)
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Keywords | EU / ハーム・リダクション / 薬物政策 / 薬物問題 |
Research Abstract |
本年度は全体のまとめを計画した。そこでまずEUにおける薬物政策システム成立に関する文書資料と調査結果、ならびにEU内の薬物政策におけるハーム・リダクション政策に関する文書資料と調査結果を統合することを計画、これを行った。次にこれまでの研究代表者の薬物政策研究、ならびに社会統合や社会的連帯に関する諸研究を参照しつつ、EUにおける薬物問題へのアプローチとEUの社会統合との関係についての研究を計画し、とくに歴史的経緯と条件について考察を行った。これらをふまえ学会発表および論文執筆を計画し、「第38回日本犯罪社会学会大会」や「依存学研究会」などの機会で報告するとともに、「アディクション」「麻薬」などの事典項目を執筆(脱稿済み)、また関連問題についても書籍に執筆した(論文については現在執筆中)。また当初は追加調査が可能であれば行う準備をしたものの、調査先の都合がつかなかったこと、これまでの調査で今の段階では十分に考察可能であることなどにより見送った。結果として明らかになったことは以下のことである。(1)戦後の経済共同体構想からECSC、ECを経てEU成立に至る歴史的過程において、薬物問題が問題全体としてではなく、当面EUがその経済体制において重視する諸カテゴリーに分割され議論されて対処される経緯が観察できること、(2)現在主流となっているハーム・リダクションを中心とした脱犯罪化統制・医療的福祉的処遇は、EUの経済環境整備の結果として析出された社会政策の一部として成立したこと、(3)その成立過程においてはEU独特の補完性の原則が重要な役割を果たし、結果としてコミュニティの役割が大きいこと、(4)ハーム・リダクション実践では他の社会政策と同様にNGO・NPOが重要な役割を果たしていること、(5)ハーム・リダクション実践において勤労福祉に関する言説が重要な位置を占めていることなどである。
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