Research Abstract |
今年度は,まず小中学生用の認知・感情共感性尺度を作成した。昨年度作成した共感的感情反応尺度では,理論的に想定された「他者のポジティブな感情の共有(以下,「ポジ共有」)」と「他者のポジティブな感情への好感(以下,「ポジ好感」)」が統計的に弁別されなかったため項目を修正し,さらに共感性の認知的側面である「他者感情への敏感性」と「視点取得」を測定する項目を追加して原案を構成した。調査の結果,「ポジ共有」「ポジ好感」「他者のネガティブな感情の共有」「他者のネガティブな感情への同情,(以下,「ネガ同情」)」「他者感情への敏感性」「視点取得」という想定通りの6つの下位尺度からなる新尺度が作成された。続いて,新尺度の信頼性と妥当性を検討した。信頼性は内的整合性と再検査信頼性で検討し,満足できる値が得られた。妥当性は共感性を測定する既存の尺度,妬み,敵意,社会的望ましさ,ソーシャルスキルを測定する尺度との関連で検討した。相関分析の結果,社会的望ましさとは弱い正の相関を示したものの,その他の変数とは概ね予測通りの結果が得られ,尺度の妥当性がほぼ確認された。さらに,共感性と向社会的行動,攻撃行動,学校生活満足度との関連についても検討した。分析の結果,「視点取得」と「ネガ同情」は向社会的行動に正のパスを,「視点取得」「ポジ共有」「ポジ好感」は攻撃行動に負のパスを示した。共感性と学校生活満足度における「承認」得点との間には正の相関がみられた。以上の結果より,共感性を高めることで,より望ましい行動が促進されること,さらに学校生活において承認される機会が増えること,が明らかとなったといえる。こうした結果に基づき,来年度に向けて介入プログラムの策定を行った。なお研究成果は,2011年開催の国際感情心理学会で発表するとともに,『教育心理学研究』『筑波大学心理学研究』へ投稿する予定である。
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