2012 Fiscal Year Annual Research Report
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21540200
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
大阿久 俊則 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (60152039)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 代数解析学 / アルゴリズム / D加群 / ホロノミック関数 / 微分差分方程式 / 超関数 |
Research Abstract |
1.定積分の満たす微分差分方程式系を計算するアルゴリズムについての研究を行なった。ホロノミックな微分差分方程式系を満たす関数uをいくつかの変数について、いくつかの多項式による不等式で定義された領域で積分した関数をvとする。このときvは残りの変数についてのホロノミックな微分差分方程式系を満たすことを証明し、そのホロノミック系を計算するアルゴリズムを構成した。そのためにまず代数的なメリン変換によってuの満たす微分差分方程式系をホロノミックな微分方程式系(D加群)に変換し、次に積分領域を定義する多項式に関するヘビサイド関数Yをuに掛けて全空間での積分とみなす。uYの満たすホロノミックシステムは、Yの満たすホロノミックシステムとuの満たすホロノミックシステムのテンソル積として求まる。次にD加群の積分アルゴリズムによってvの満たすホロノミックな微分方程式系が計算される。最後にこの微分方程式系から逆メリン変換によってvの満たすホロノミックな微分差分方程式系が得られる。以上のアルゴリズムでは、uYの満たすホロノミック系を計算するために2つのD加群のテンソル積の計算が必要であるが、この計算は一般には非常に複雑であり、上記の計算アルゴリズムのボトルネックとなり得る。そこで、テンソル積の計算を経由せずにuYの満たすホロノミック系を計算するアルゴリズムを構成した。これにより、たとえばベッセル関数を含む多重積分の満たす微分差分方程式系の計算を実行することができた。 2.実多項式fの複素数冪を、超関数に値を持つ解析関数とみなすことができる。これは数学的に極めて興味深い対象であり、たとえばb関数の理論により全複素平面に有理型関数として解析接続されることが導かれる。この関数の極のまわりでのローラン展開の係数が超関数として満たすホロノミック系を計算するアルゴリズムを構成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画はほぼ達成された。以下、研究実施計画に記載した項目ごとに述べる。 1.ホロノミックな微分差分方程式系をみたす関数の定積分の満たす微分差分方程式系については、研究代表者が以前に導入したD加群の積分アルゴリズムを微分差分方程式系に拡張することと、ホロノミックな微分差分方程式系を満たす関数と積分領域から決まるヘビサイド関数との積の満たす微分差分方程式系を計算することにより達成された。アルゴリズムの立場からは目的は達成されたが、個々の具体例に関する理論構成については現時点では不十分である。 2.多項式の複素数冪で定義される超関数については、極におけるローラン展開の係数が超関数として満たすホロノミッックな微分方程式系を計算するアルゴリズムを見いだした。ただし、これは零化イデアルの部分イデアルであり、零化イデアルと一致するかどうかについては、いくつかの例について正しいことを確認したが、常に一致するかどうかについては未解決である。 3.代数的局所コホモロジー類に対して上記の超関数の負の整数における留数を対応させることにより、複素領域で定義されたコホモロジー類の超関数としての実化(realification)が定義される。この対応における零化イデアルの比較についての研究を行い、それぞれの向きの包含関係がなりたつための十分条件を与え、種々の具体例に適用した。部分的な結果ではあるが、この方面の先行研究はほとんどないため、有意義であると考える。 論文については平成24年度に2篇が出版され1篇が印刷中である。平成24年度に得られた残りの研究成果については現在論文を準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は上記の通りほぼ計画通りに進捗しているため、平成25年度も研究計画に沿って研究を遂行する予定である。特に、現在までの研究で構成された積分や多項式の複素冪の極におけるローラン展開の係数が満たす微分差分方程式系を計算するアルゴリズムの評価を行い、更なる効率化を目指すとともに、種々の具体例に適用して、新たな知見を得ることを目標とする。また、代数的局所コホモロジーと留数について、引き続きアルゴリズムと理論の両面から研究を行う。 以上の研究計画を遂行するためには、国内外の研究者との交流が重要であると考える。そこで、国内外の研究集会やワークショップ等に積極的に参加し、本研究課題の研究成果を発表すると共に、討論や研究連絡を通して、本研究課題とは異なる視点からの考察の可能性についても探りたい。 また、平成25年度は最終年度であるため、得られた研究成果のうち未発表のものについては論文としてまとめて、適当な専門学術誌へ投稿する予定である。 さらに、本研究課題で開発したプログラムについては、上記の評価の後、研究代表者のホームページ等で公開し、関連研究分野の研究者の利用に供する予定である。
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Research Products
(6 results)