2012 Fiscal Year Annual Research Report
次世代ダークエネルギー探査を用いた宇宙論スケールの重力理論の検証
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21540270
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山本 一博 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50284154)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 宇宙物理 / 重力理論 / 大規模構造 / 重力レンズ / 銀河団 / ダークエネルギー |
Research Abstract |
本年度は、拡張重力模型の理論予言と宇宙論的観測との整合性に関する以下の成果を得た。 第1に拡張重力模型の一般化されたスカラーテンソル理論において、銀河団の重力レンズ効果に関する理論予言、および観測との比較から模型の制限を行った。ガリレオン重力模型では、一般に非等方圧力成分によって光の経路への影響がある。ヴァインシュタイン機構と呼ばれる模型特有の性質から銀河団の中心では一般相対論が回復しているが、外縁部ではその機構の働かない領域が存在するので理論模型のテストが可能であることを示した。銀河団の観測から得られたシアープロファイルに対応する理論予言とを比較することから、ヴァインシュタイン機構の遷移に対して制限を与えた。 第2に同じく一般化されたスカラーテンソル理論では、重力波の音速が光速度より遅くなる場合があることに着目し、このような模型での重力チェレンコフ放射過程とその帰結について議論した。重力チェレンコフ放射過程が起こると超高エネルギー宇宙線が到来することと矛盾するので、重力波の音速が制限されることになる。特に、一般化されたスカラーテンソル理論のなかでも、拡張ガリレオン模型、スカラー場の運動項と曲率がカップルした模型が強く制限されることを示した。 第3に、カメレオン重力模型の銀河団へ応用した場合、外縁部でガス分布に影響があることが分かった。これは、一般相対性理論を回復するカメレオン機構が銀河団の外縁部では十分に作用せず、第5の力が影響するためであることを示した。静水圧平衡とポリトロピック状態方程式を仮定したガス分布の理論予言とX線観測によるうみへび座A銀河団の温度分布とを比較することにより、カメレオン重力模型に制限をつけることができた。修正重力模型の制限の新しい方法論として学術雑誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
拡張重力模型の理論予言を調べてその検証まで含める研究計画であった。計画に対する達成度は以下のとおりであり、概ね順調に進んでいる。 第1に、一般化されたガリレオン模型の理論予言と観測との整合性に関する研究について、チェレンコフ放射過程を用いた制限が有用であることを示した。最大限一般化されたスカラーテンソル理論に対する重力チェレンコフ放射過程を用いた制限では、これまで提案されている複数の模型に対して強い制限となることが明らかになった。また、この最大限一般化されたスカラーテンソル理論を応用した模型において、密度揺らぎの準非線形領域での進化を調べる計画であった。今年度まの研究で、密度揺らぎのバイスペクトルに着目した研究を進めており、今後成果として取りまとめる計画である。 第2に、銀河団を用いた重力理論の検証研究を進める計画であった。今年度は、カメレオン重力模型で現れる銀河団ガスの分布の特徴を調べ、X線観測との比較からこの模型に制限を与えることができた。この成果は、重力理論の独立した新しいテストとして興味深いものである。銀河団の観測は、弱重力レンズを用いた観測を含め、X線、電波を使った観測といった独立した複数の観測が行われるようになっており、より現実的な理論模型の構築と観データとの詳細な比較を今後進めたい。 第3に、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)LRGサンプルデータのパワースペクトル解析を行ってきたが、結果の波数が大きな部分で多重極パワースペクトルの振る舞いを物理的に理解することができていなかった。今年度までの研究で、この振る舞いに対してLRG銀河サンプルのうち1つのハロー内に複数銀河が存在する系のサテライト銀河が非常に特殊な寄与をしていることが分かってきた。今後さらなる調査を行う必要があるが、この発見は大きなブレイクスルーである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究で、SDSS,LRGサンプルの多重極パワースペクトル解析からLRG銀河サンプルのうち1つのハロー内に複数銀河が存在する系のサテライト銀河が多重極スペクトルの振る舞いに大きく影響していることが分かった。この新しい発見は、赤方偏移探査による3次元銀河分布の赤方偏移歪みの理解が十分でなかったことを示しており、今後この発見を追求し精査することが重要と考えている。ハローモデルと呼ばれる理論模型の枠組みで、この振る舞いを理解できる可能性があり、その物理的描像を明らかして、赤方偏移歪みの測定に基づいた重力理論の検証へのインパクトまで明らかにする。 第2に、銀河団のガス分布の観測を用いた修正重力模型の制限に関して議論の精密化を図る。特に、銀河団ガス分布の静水圧平衡からのズレについては、複数の視点から検討を行う。髪の毛座銀河団は、比較的近傍にある銀河団で、X線観測、電波観測、弱重力レンズ観測といった観測がなされ、独立した観測量を用いることで、ガス分布の静水圧平衡に関する検証が可能となってきている。そこで、髪の毛座銀河団のガスの状態を静水圧平衡を仮定せず観測量から再構築し、修正重力模型の制限まで応用する。 第3に、一般化スカラーテンソル理論に基づいた宇宙模型での銀河分布の精密理論予言、中でもバイスペクトルの表式を求めて、一般相対性理論との違いを明らかにする。密度揺らぎの摂動理論を用いて解析な議論を進め、将来の大規模銀河サーベイへの応用準備とする。 上記の宇宙論スケールの重力理論の検証研究を進め、最終年度に向けて研究計画の達成を目指す。
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Research Products
(14 results)