2012 Fiscal Year Annual Research Report
中生代白亜紀ブラジル・サンタナ層のクモ類化石の進化学的研究
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21540487
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
小野 展嗣 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (50167326)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 層位 / 古生物学 / 中生代 / 化石 / 進化 / クモ類 |
Research Abstract |
節足動物の進化を研究する上でクモ類はひじょうに重要な動物群の一つである。中生代ブラジルのサンタナ層から産出する未研究の化石および現生のクモ類標本を比較形態学的、進化学的に研究し、クモ類の進化の諸相を明らかにすることが本研究の大きい目的である。平成24年度においては、上記目的に沿って、以下の通り研究を推進した。 1.化石・比較現生標本の形態学的および分類学的研究の継続(代表者・アルバイト):これまでの年度同様、国立科学博物館が所蔵するサンタナ層のクモ類化石3点に関して形態・分類学的な下作業を実施した。多岐にわたる作業(研磨、撮影、描画、測定、解剖など)のうち、高度な技術を要するものは代表者が、また比較的単純な作業はアルバイトが行った。それに係る研究環境および人材は同館が現有する施設(人件費を含む)で賄い、物品費として35,730円を要した。 2.国内における参考資料の調査(代表者):追手門学院大学の加村隆英教授ら国内の研究者と議論を進めた(費用は別途調達した)。 3.海外の研究者との打ち合わせ・研究発表(代表者・研究協力者):9月にスロベニアで開催された第27回欧州国際クモ学会議に出席し、海外の研究者と情報交換を行い、米国カンザス大学のP. A. Selden教授らと本研究で得られたデータについて議論を行った。海外出張のための旅費(431,650円)およびその他の費用(32,620円)を使用した。また、化石クモ類が専門のフンボルト大学付属動物学博物館(ドイツ・ベルリン)のJ. Dunlop博士や現生の原始的な群を研究するスイス・ジュネーブ自然史博物館のP.J. Schwendinger博士らとインターネットを利用して中生代クモ類の進化について議論を行い、ラオスで行われたアジア・クモ学会シンポジウムにおいてハラフシグモ科の分類に関する口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標であった現生ハラフシグモ類(Mesothelae)のアジアにおける種分化および高次分類群(亜科、属群、および種群)の検討という大きい課題を予定より1年はやく昨年度に達成し、スイス・ジュネーブの自然史博物館のP. J. Schwendinger博士との共著論文の公表という段階にまで進めることができたので、本年度は多少の余裕を持ってさらなる議論を展開することができた。 また標本の比較形態学的観察に基礎をおく進化学的なアプローチを行い、古生代から中生代にかけてクモ類がとのように環境に適応し分化していったかについて、進化の諸相のおよそのシミュレーション(仮説)を描くことができた。 さらに、来年度に予定していた当初の発表計画における海外遠征の予定を早めて、アジアにおけるハラフシグモ科の系統・分類について、ラオスのパクセーで開催されたアジア・クモ学会のシンポジウムの場で口頭発表し(旅費は別途調達)、同類の総説的かつ先駆的な研究の進展をアピールすることができた。同シンポジウムはアジア・クモ学会の実質的な設立総会を兼ねていたが、同学会の会長に選出され、今後の国際交流における責任の一端を担うこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も継続して、国立科学博物館の現有設備と標本・資料を利用、また使用して研究計画に沿ったルーティンな作業(研磨、撮影、描画、測定、解剖)および研究を遂行し、これまでに得られたデータとあわせて全体を再検討し、化石標本および現生クモ類の標本の両面から比較形態学的、進化学的研究を進める。 とくに、本課題の研究によって新たに発見されたコガネグモ上科(Araneoidea)に属するクモ(中生代当時もっとも進化していたと考えられる群の一つ)の1種(おそらくアシナガグモ科Tetragnathidaeのドヨウグモ亜科Metinaeのものと思われる雌成虫)の外雌器(交尾器の一部)を精査し、現生の同類との異同をもとに、クモの生殖行動の進化についての議論を行う。また、中生代の同類が篩板および第4歩脚の毛櫛を持っていたかどうか(網の粘性物質の根本的な相違がどこで生じたか)、という重要なテーマについて言及したい。 そのために、日本および東南アジア地域において現生クモ類の比較材料の入手に努め、クモ類の普遍的な形態形質を再吟味し、主に中生代のクモ類の化石標本の形態の復元に取り組む。継続的に議論を重ねているフンボルト大学付属動物学博物館(ドイツ・ベルリン)のJ. Dunlop 博士、米国カンザス大学教授のP. Selden博士、スイス・ジュネーブ自然史博物館のP.J.Schwendinger博士らとこれまで同様、綿密な連絡を取る。 来年度はこれまで行ってきた本課題による研究の総まとめとして、クモ類の進化を中生代という切り口で論じたい。夏季に台湾で開催される第19回国際クモ学会会議において、アジアのクモ学全体の歴史と現状に関するplenary talkを予定しているが、その大きい部分を本課題の研究結果が占めることになると思われる。
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Research Products
(2 results)