2010 Fiscal Year Annual Research Report
広帯域誘電分光法による生物細胞膜の損傷と修復のモニター
Project/Area Number |
21560447
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浅見 耕司 京都大学, 化学研究所, 准教授 (90127936)
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Keywords | 細胞膜 / 誘電分光 / 細胞 / 界面分極 / 誘電緩和 / 赤血球 / 溶血 |
Research Abstract |
赤血球を低浸透圧の媒質に懸濁すると、細胞内へ水が浸入して膨らみ、やがて破裂して、細胞内のヘモグロビンが流失する。残った細胞膜の袋(ゴースト)には、穴が開いている。この穴はイオン強度や温度によって、拡大、縮小する。ゴーストの懸濁液に交流電場を与えて、誘電率を広い周波数領域にわたって測定すると、未損傷の赤血球では見られない誘電緩和が低周波側(α-分散)に現れる。このα-分散の発見は50年程前に報告されているが、測定上の問題から、確認が困難であった。昨年度の研究では、このα-分散を確認することに成功し、これが穴の存在を考えると説明できることが分かった。 今年度は、穴が拡大や縮小する条件下で、α-分散の性質を詳しく調べた。イオン強度の低い媒質に懸濁して室温で測定すると(穴が拡大する条件)、α-分散は時間とともに変化し、緩和周波数の増加と緩和強度の減少が起こった。イオン強度を上げると(穴が縮小する条件)、α-分散の緩和強度は変化せずに特性周波数が減少した。この結果は穴開き細胞モデルを用いた数値計算の結果と良く合うことが分かった。計算には、以前用いた差分法の代わりに、計算精度の高い有限要素法を用いた。これにより、小さい穴をもつモデルの計算誤差を大幅に減少することができた。この計算結果から、α-分散の特性周波数と穴の径の間に直線関係があることが分かり、穴の径を見積もることができた。さらに、穴の直接観測を行うため、低イオン強度下で拡大した穴(μmサイズ〉について光学顕微鏡観察を試みたが、成功していない。原子間力顕微鏡を用いた予備実験で、風乾したゴースト試料について、穴を観測している。
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