Research Abstract |
大規模な魚類養殖事業において種々の伝染病が多発し,毎年大きな経済的損失を被っている。抗生物質や抗菌薬の多用は,薬剤耐性菌を出現させ,問題が大きい。これに対し,インネートイムニティー(基盤免疫)増強による魚類の感染防御能誘導は,ワクチンによる特異免疫とともに,魚類感染症制圧のための有力な手段である。本研究では,Lactobacillus, SaccharomycesおよびPichiaを共棲発酵して得られた免疫賦活物質をコイに投与し,耐性菌を出現させずに感染症を予防する方法の確立をめざしている。今回,コイの重要細菌感染症のひとつである「穴あき病」をとりあげ,免疫賦活物質による感染防御効果の可能性試験を行うとともに,その免疫賦活ならびに防御メカニズムの一端を明らかにした。「穴あき病」は,養殖ニシキゴイおよび食用コイに多発する細菌病で,Aeromonas salmonicidaを原因とする。鱗の充出血から体表の広範な出血を経て,重度の潰瘍となり死亡する。ワクチンは開発されていないため,これまで抗生物質による治療がなされていたが,耐性菌の出現により有効性が著しく失われ,治療はますます困難になっている。今回,1)基盤免疫を強く増強する本共棲発酵産物を飼料に添加してコイに与えた後,強毒A. salroonicidaを浸漬感染させ,感染防御試験を行った。また,2)感染防御メカニズムを解析した。感染防御実験では,混合菌培養産物投与群では症状の程度,死亡率ともに対照群に比べ顕著な軽減が見られた。サイトカインmRNA発現については,IL-1βが顕著に増加していることから,マクロファージやリンパ球が活性されたと考えられた。また脾臓におけるCXCケモカインmRNA発現の増加から,好中球数の増加や活性化も示唆された。したがって,混合培養産物投与による非特異的基盤免疫の上昇を,「穴あき病」抵抗性を上昇させる要因の一つと推測した。
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