Research Abstract |
魚類養殖において伝染病が多発し,大きな経済的損失を被っている。抗生物質の多用は薬剤耐性菌を出現させ,問題が大きい。これに対し,インネートイムニティー増強による魚類の感染防御能誘導は,ワクチンによる特異免疫とともに,感染症制圧のための有力な手段である。本研究では,Lactobacillus, SaccharomycesおよびPichiaを共棲発酵して得られた免疫賦活物質を魚類に投与し,耐性菌を出現させずに感染症を予防する方法の確立をめざしている。今回,有効な疾病対策がなく,大きな問題となっているトラフグの粘液胞子虫性「やせ病」に対する共棲発酵培養産物の予防効果を,野外実証実験により証明した。50日間の試験期間で,体重増加率は非投与群の106%に対し,共棲発酵培養原液1%添加ペレット×4/100魚体重/日投与群は123%を記録した。「削痩(やせ)指数」から「やせ病」と判定される個体の出現率は,対照の10/98(10.2%)に対し,共棲発酵培養産物投与群は1/63(1.6%)にとどまった。PCRによる粘液胞子虫遺伝子の検出率も,対照群で高かった。共棲発酵培養産物投与期間中,外部寄生虫駆除を実施しないにもかかわらず,エラ虫(ヘテロボツリウム)などの寄生虫寄生は抑制され,他の感染症の発症も見られなかった。さらに,血液検査,肝機能検査の結果,「やせ病」罹患トラフグは,腸管への粘液胞子虫寄生による機能障害により,エネルギー源であるアルブミンやブドウ糖濃度が異常に低下し,また肝細胞が傷害されていることを発見した。サイトカインmRNA発現を調べた結果,いくつかの炎症性サイトカインが顕著に増加していることから,マクロファージやリンパ球が活性されたと考えられた。したがって,共棲発酵培養産物投与による非特異的免疫の上昇を,「やせ病」抵抗性を上昇させる要因の一つと推測した。
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