Research Abstract |
膵・胆管合流異常における胆道上皮の発癌機序は解明されていない。遺伝子転写(RNA)レベルでの変化に注目し,遺伝子の発現異常をmicroarrayにより網羅的に検討した。2008年から2009年に手術した合流異常6名(2-8歳),肝芽腫4名(1-4歳)の胆嚢を,それぞれ対象および対照とした。胆嚢は直ちに上皮を剥離し,迅速凍結し保存した。RNAを抽出し,CodeLinkTM Human Whole Genome Bioarray (Applied Microarrays社)でヒト全遺伝子の発現を検出した。各遺伝子の発現強度を比較し,統計学的に有意で,平均強度比が2.0より大きいものを亢進,0.5未満を低下とした。変動遺伝子のうち,差が著しいもの,炎症や細胞回転に関連のある遺伝子を選択し,real-time reverse transcription-PCR (RT-PCR)にて発現の差をさらに確認した。Microarrayでは合流異常の188遺伝子が亢進し,160遺伝子が低下していた。RT-PCRでは亢進した6遺伝子のうち5遺伝子(UCA1, DUOX2, DUOXA2, ID1, BMF)の亢進が,低下した5遺伝子のち1遺伝子(GP2)の低下が確認された。今回の結果は,小児期においても合流異常の病態と関連して遺伝子の発現変化が生じていることが確認された。特にUCA1は,膀胱癌細胞において過剰発現する蛋白をコードしないRNAとして発見された。癌と胎児組織に発現し,合流異常の癌化にも関与する可能性が高いと思われた。BMFは胆嚢上皮の細胞回転亢進に伴うアポトーシスに関与する可能性がある。DUOX2, DUOXA2, ID1の亢進とGP2低下は,潰瘍性大腸炎などの前癌病変でみられると報告されており,合流異常でも病態への関与が予想される。今後,蛋白レベルでの解析が必要である。
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