2011 Fiscal Year Annual Research Report
染織技法の分業化の展開に関する基礎的研究―技法書・絵画資料・実作品の分析を通して
Project/Area Number |
21700727
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
菊池 理予 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 研究員 (40439162)
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Keywords | 染織技法 / 分業 / 無形 |
Research Abstract |
本研究は今日までさまざまな発展を遂げてきた染織技法が具体的にはどのように継承され、受け継がれてきたのかを「分業化」を通じて明らかにすることを目的としている。 現在に受け継がれてきた染織品は、それぞれの時代、それぞれの技法により制作されてきた。そして、これらの染織技法が、分業という基盤に支えられてきたことは確かであろう。染織における分業体制は現在まで引き継がれ、応仁の乱以降の染織産業の中心地であった京都の西陣だけでなく、結城紬や越後上布などの地方染織産業においても見られるものである。染織品の制作には多くの工程があり、現存遺品を見る限り、専門的な技法・道具を用いることなくしては施すことのできない高度な技術が一領の作品の中に複数確認できる。これは、分業化こそが、技術・技法の継承に大きく関わっていることを示している。中世以降の絵画資料や江戸時代の版本等を元に染織品関連の職種を概観すると、描かれる染織技法は時代の変遷とともに増加することがうかがえるが、これは染織品制作の分業化と軌を一にするものと推察される。これら絵画資料と文献資料に見られる染織技法を整理することで、現在まで語られてきた染織技法史を再考することを目指す。 平成23年度は、主に平成22年度に引き続き本研究の基礎的作業である染織関連の文献資料の整理を行った。『日本染織文献総覧』(後藤捷一、昭和55年)は、これら資料の目録であり、現在、同書所収の資料は凌霄文庫として四国大学付属図書館に保管されている。しかし、図書館に収められる以前に、これらの資料は散逸しており、すべての資料にあたることができない。昨年度は、これら資料の公刊、活字の状況、所蔵先の情報の整理を重点的に行い、本年度は、公刊されている資料の整理を重点的に行い、その内容把握に努めた。最終年度へ向けて、更に調査対象資料を増やしながら、染織技法の分業化について検討していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要文献である『日本染織文献総覧』(後藤捷一、昭和55年)の刊行から30年の歳月は、同書掲載資料の活字化をさらに進める結果となった。しかし、一方で散逸したものであたれない資料も多くあることもわかった。データが膨大なため、それらをどのように整理するべきか検討の余地があるが、研究計画に沿って順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、染織技法の分業化を明らかにするためには技法などの情報を抽出し、データベース化することを想定していた。しかし、それら技法名称は時代や地域、資科の性質により異なるものもあることが明らかとなってきた。一つの技法は変化しながら展開を遂げていることから考えても、それらをデータ化することは容易ではない。そこで、分業化の基礎的な解明を目指す本研究では、まずは材料である繊維や染料、そして、それらが生地となり染織品となるまでの生業に更に焦点を絞ってみていきたいと考えている。
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