2009 Fiscal Year Annual Research Report
フェミニズムとファシズムの「接点」―メアリ・アレンと戦間期イギリス社会―
Project/Area Number |
21720277
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
林田 敏子 Setsunan University, 摂南大学・外国語学部, 准教授 (10340853)
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Keywords | 西洋史 / イギリス史 / フェミニズム / ファシズム / ジェンダー |
Research Abstract |
20世紀初頭の女性参政権運動で活躍したフェミニスト、メアリ・アレンが、両大戦間期にファシスト化する契機をさぐるべく、第一次世界大戦がアレンに与えたインパクトについて考察した。大戦の勃発とともに誕生したイギリス初の女性警察に入隊したアレンは、指導者の一人として組織を率い、女性の社会進出を促進する運動の最前線に立った。しかし、戦時という特殊条件下で誕生した女性警察は、戦後、存続の危機に陥ることになる。警察という世界は、それまで女性を完全に締め出してきた「男の聖域」であり、戦争という危機が去ると同時に、女性は「元の居場所」への撤退を迫られたのである。「生き残り」をかけてアレンが選んだのは、(警察内における)性別役割分担の強調という手段だった。それは、警察という男社会のなかに女の居場所を確保する強力な手段であったが、同時に、男女平等化を阻害し、性差別を固定化する両刃の剣でもあった。女性警察運動における「失敗」(男女平等化という目標の喪失)は、フェミニストとしてのアレンの「その後」に大きな影響を与えることになる(以上の研究成果を論文にまとめ、学術雑誌に発表した。「警察とジェンダー-20世紀イギリスにおける女性警察-」『歴史学研究』第860号、2009年、26-35,75頁)。アレンは、両大戦間期に入ると、選挙への出馬や、ゼネスト時の政府支援といった国内での活動のほかに、アイルランドやドイツでの治安維持活動、講演、視察など、海外にも活動の場を広げていく。一見、何のつながりもないこれらの活動を一本の線でつなぐことで、アレンがファシストに傾倒していく過程を跡づけるとともに、フェミニズムとファシズムの接点をさぐった。以上の研究成果については、2010年2月、京都大学人文科学研究所の研究会にて、「フェミニストとして、ファシストとして-あるイギリス人女性と世界大戦-」というタイトルで発表した。
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