2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21730279
|
Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
竹田 泉 (竹田 泉) 和光大学, 経済経営学部, 准教授 (20440216)
|
Keywords | リネン業 / イギリス綿業 / アイルランド / 重商主義政策 / アメリカ植民地 / 工業化 / 商人 / グローバル・ヒストリー |
Research Abstract |
平成23年度は、本研究の3年目であり、1年目、2年目で行った史料調査をもとにまとめの作業に取り組んだ。本研究の出発点は、18世紀におけるヨーロッパ各地のリネン業の盛衰がどのように関連し合っていたのかについて分析することが、イギリス綿業の形成過程を明らかにすることにつながるのではないかという着想であった。経済史の分野では、従来、進んだヨーロッパとの対比でアジアの後進性が主張されてきたが、近年盛んとなっているグローバル・ヒストリー研究では、どこが経済的に優位であり劣位であるのかという観点ではなく、それぞれの地域が地球規模の経済の動きのなかでどのように関連しあっているのかという議論が打ち出され、ヨーロッパ中心史観や一国史観の相対化が試みられている。本研究は、アジアに属するインドの純綿織物(キャラコ)が、イギリスの工業化に積極的な役割を演じたという点だけでなく、ヨーロッパ各地で製造されるリネンとの関係のなかで、イギリス綿業萌芽期の成長過程を位置づけたが、それは、イギリス綿業の一国史的解釈を見直す作業となった。その結果、これまでイギリス綿業史の出発点とされていた18世紀第4四半期の水力紡績機の登場、すなわちキャラコのイギリスによる国産化の成功は、約1世紀に渡るイギリスによるキャラコの代替化過程の最終局面として再定置できることを示した。その代替化過程がすなわちイギリス綿業の形成期であり、イギリスはその間、素材を麻に頼ってキャラコの代替品を製造していたのである。本研究は、この視点から、綿織物の原産地インドだけでなく、ヨーロッパの複数のリネン生産地、およびそれらの消費市場としてのアメリカ植民地との関連のなかで、新たなイギリス綿業史の解釈を示した。
|