2010 Fiscal Year Annual Research Report
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21730397
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
高野 光平 茨城大学, 人文学部, 准教授 (70401156)
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Keywords | 集合的記憶 / 昭和ノスタルジー / レトロブーム / 1980年代論 / 1990年代論 / サブカルチャー / 記憶の社会学 / メディア論 |
Research Abstract |
本研究は、戦後昭和の生活文化を懐かしむ「昭和ノスタルジー」が、メディアによってどのように表現されているかを具体的に整理・分析することで、その特徴と要因を考察するものである。関連する書籍約300冊、各種雑誌・新聞記事、博物館等の施設、映画・テレビ番組などを横断的に分析した結果、ノスタルジーの主題が「子ども時代・小学校」「メディア」「モノ」「風景」「総合」「有名人の自分史」という6つのカテゴリーに分類できることが分かった。また、各カテゴリーで取り上げられる対象には強い偏りがあり、イメージがステレオタイプ化されている状況が浮き彫りになった。さらに詳しくみていくと、実体験に基づいて昔を懐かしむ「ノスタルジー」と、実体験の有無に関わらず、昔の表象に現在的な意味(笑える、味わい深いなど)を付与して愛好する「レトロ」のふたつの傾向があり、両者が複雑に絡み合っていることが分かった。両者の起源をたどっていくと、ともにその発生を1980年代中盤~90年代前半に定められる。ノスタルジーの起源は子どものころに見たアニメや特撮ヒーローなどについて語りを蓄積させる「オタク」であり、レトロの起源は雑誌『宝島』などを中心にした「サブカル」と、60~70年代的表象をオシャレに消化した「渋谷系」である。ノスタルジーとレトロは交配を繰り返しながらも独立して発展してきたが、00年代初頭からクロスオーバーが強まって最終的にノスタルジーがクリティカル・マスとなった。これは団塊世代の定年やテレビ50年など、複数の要因から結果的に導かれたものだ。戦後日本がメディア情報とモノにあふれた時代だったことで、共有可能な対象が多くなり、世代内での内輪なコミュニケーションが濃厚になる。またレトロという変数が含まれていることで、下の世代にも共有可能になる。こうした要因は戦争記憶など他の集合的記憶と質的に異なる点であり、戦後日本に固有の集合的記憶の事例を示すことができた。
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