2011 Fiscal Year Annual Research Report
農商務省と文部省に分けられた近代日本における漁業者養成制度の構造的特質
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21730657
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
佐々木 貴文 鹿児島大学, 水産学部, 助教 (00518954)
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Keywords | 水産学校 / 専検指定 / 階層移動 / 遠洋漁業 / 資本制漁業 |
Research Abstract |
最終年度となる本年度は、水産教育機関が漁業資本などの実社会へ人材を送り出す機能の分析をおこない、水産教育機関を卒業して、技師や船舶職員などの専門性の高い職に就いた者のキャリア構築の過程を捉えることで、水産教育システムと漁業経済システムの交錯を立体的に把握することを目指した。 その結果、文部省管轄下にあった水産学校の性格として次のことが明らかとなった。すなわち水産学校は、実業学校として中学校や高等女学校とならぶ中等教育機関に位置づけられており、教育内容や水準も当然ながらそれらとの整合性が求められた。このため専門学校への接続および判任文官への無試験任用を可能とした「専検指定」や、陸軍幹部候補生への志願資格が得られる現役将校配属の特典が付与された。特典によって、社会的位置づけが明確にされていたため、福井県立小浜水産学校では、明治後期の1905(明治38)年でさえ、在籍者103名のうち、士族階級が17.5%を占めた。卒業後は、官公吏となる者や水産資本に身を投じる者はいても、沿岸漁業に参入する者は限られた。 この結果に、これまでの研究で明らかとなった官立および府県水産講習所の機能に関する研究成果をあわせると、近代日本の水産教育機関は、水産補習学校や一部の事例を除いて、沿岸漁業への貢献という側面を強化する方向に展開することはなかったことが確認された。すなわち、官立水産講習所は、水産学校と同じように官公吏需要や水産資本拡大への対応に軸足を置いていたし、これらに比べれば沿岸漁業層の傍らにあった府県水産講習所でさえ、大正期から昭和初期にかけて、威信や特典を求め、水産学校への改組や昇格を望むようになった。 この時代、学校に通うには経済的余裕はもちろん、階層移動への期待が動機として必要であった。水産教育機関も、自らの存立意義を官公吏養成や資本制漁業への人材供給に求めることで階層移動を後押しした。はたして、近代日本の水産教育の展開過程からは、沿岸漁業への貢献が、学ぶ者、教える者の双方にとってその強い動機とはなり得なかったことが明らかとなった。
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