2009 Fiscal Year Annual Research Report
揮発性硫黄化合物が歯槽骨吸収に及ぼすメカニズムの解明
Project/Area Number |
21792149
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
入江 浩一郎 Okayama University, 病院, 医員 (50509594)
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Keywords | 口臭 / 揮発性化合物 / ラット |
Research Abstract |
近年の研究から,H2Sが歯槽骨においてRANKL発現を介した破骨細胞の分化を引き起こすことが分かってきた。しかし,破骨細胞への分化はある一定の濃度の影響しか確認ができておらず,濃度依存による比較はまだ明らかではない。そこで本研究では,異なる濃度のH2Sを歯肉溝に塗布することによって,歯周組織における破骨細胞分化とRANKLおよびサイトカインの発現に対する影響について比較検討した。4群[実験群と対照群]に分け,実験群の両側上顎第一臼歯口蓋側歯肉溝に,H2SのドナードラッグであるNaHS溶液をそれぞれの濃度(0.1mM,1mM,10mM)に分け,0.5μlずつ5分間隔で6回塗布した。また対照群は無処置とした。過去の研究から1日後が,最も歯周組織に影響を及ぼすことから,塗布1日後に屠殺を行った。歯周組織の形態分析を行うため,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。またRANKL抗体と酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)による二重染色およびTNF-α抗体による染色を行った。組織学的分析では対照群において病理学的変化は認められなかったが,NaHSを塗布した群では接合上皮と結合組織に炎症性細胞浸潤が認められた。セメントエナメル境(CEJ)から歯槽骨頂までの距離には差がなかった。RANKL陽性細胞数はNaHS 1.0mM塗布群で対照群とNaHS 0.1mM塗布群に比べて高かった。TRAP陽性細胞数はNaHS 1.0mM塗布群とNaHS 10mM塗布群で対照群とNaHS 0.1mM塗布群に比べて高かった。TRAP陽性細胞数に対象群とNaHS 0.1mM塗布群では差がみられなかった。TNF-αの発現に関しては,各濃度において明らかな差は認められなかった。NaHS 1.0mM塗布群とNaHS 10mM塗布群では対照群とNaHS 0.1mM塗布群に比べて破骨細胞誘導が認められた。しかしNaHS 0.1mM塗布群と対照群では差は認められなかった。これはNaHSの濃度が低く歯周組織に影響を及ぼさなかったのではないかと考えられる。 TNF-α陽性細胞数に差が認められなかった。TNF-α陽性細胞数は,NaHS塗布3時間後に有意に増加するため,1日後では発現がすでに低下しており,差が認められなかったのではないかと考えられる。慢性歯周炎患者の歯周ポケットのH2S濃度は0.025~0.1mM(Persson S et al.,1992),歯肉溝浸出液のH2S濃度は1.9mMといわれている(Morita M et al.,2001)。これらのことから慢性歯周炎患者にみられる歯槽骨吸収にH2Sが影響を及ぼしているのかもしれない。今後,匹数を増やしたり,培養細胞による実験等を行い,さらに検討をしていく必要がある。 <結論>H2Sが濃度依存的にラット歯周組織におけるRANKL発現および破骨細胞数の増加を誘導した。
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