2010 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀末スペイン文学における異端審問の表象について
Project/Area Number |
21820043
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
丸田 千花子 慶應義塾大学, 経済学部, 講師 (00548414)
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Keywords | 外国語文学(中・英・独・仏を除く) / スペイン / 20世紀 / 異端審問 / 歴史小説 |
Research Abstract |
本研究の目的はスペイン異端審問を題材とした歴史小説ホセ・マリア・メリーノ『ルクレシアの幻視』(1996)とミゲル・デリーベス『異端者』(1998)において異端審問の一次史料、歴史研究書、小説を比較することで90年代後半の歴史小説における異端審問の表象を解明することである。研究最終年度の本年度は『ルクレシアの幻視』の研究では昨年度収集した異端審問史料の精読を踏まえ、主人公ルクレシアの人物像をめぐる作家メリーノと歴史研究者リチャード・ケーガンの解釈の違いを検証した。一次史料の精読から被告ルクレシアの口述証言が文字テクストとなる過程において筆記者の言語的・思想的介入の可能性が高いことを明らかにし、筆記者の介入の程度や可能性に対する、両者の取り扱いの違いが被告の人物解釈に反映されたと考察した。その成果を第22回CANELA(日本・スペイン・ラテンアメリカ)学会にて"Una visionaria procesada por la Inquisicion: Las visiones de Lucrecia (1996), novela de Jose Maria Merino"として口頭発表にまとめ、さらに論文として2011年3月刊行の学会誌に発表した。『異端者』の研究では小説に描かれた家族関係(夫婦関係、父子関係)が主人公のプロテスタント改宗に関係すると同時に90年代スペインの社会事情を反映していると考察した。主人公の夫婦関係の破たんの背景には作家が長年小説のテーマとしている現代スペイン社会における都市と農村の地域格差の問題が隠されていることを明らかにし、論文『ミゲル・デリーベス『異端者(1998)における夫婦像』を発表した。また父子関係の分析から主人公の父に対する恐怖心は権力の体現である聖俗界の父である教会、国王への恐怖心でもあると考察し、父子関係と異端審問との関連性を見出した。成果はFear in Miguel Delibes's El hereje(1998)として第52回MWMLA(現代アメリカ現代語中西部学会)第52回年次総会にて口頭発表した。
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Research Products
(4 results)