2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of "nitrogen-cycle" and its long-term evolution on Martian surface
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21H01149
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小池 みずほ 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (60836154)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中田 亮一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 主任研究員 (50726958)
臼井 寛裕 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (60636471)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 窒素の循環と進化 / 窒素化学種 / XAFS / 火星アナログ / 粘土鉱物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、火星における窒素の循環と進化の過程を火星隕石の記録から明らかにすることである。太古の火星は現在に比べ湿潤・還元的であり、生命誕生前の地球同様に無生物的な窒素循環が卓越していた可能性がある。火星の岩石隕石には、火星の様々な時代と場所の環境情報が記録されている。本研究では、様々な火星隕石について局所化学種解析を行い、どこに・どのような窒素化学種が存在するかを解明することを目指した。さらに、ノルウェー・スピッツベルゲン島のボックフィヨルド火山周辺の玄武岩質複合岩体を「火星アナログ」とみなし、その試料も同様に調べた。火星アナログ試料は約100万年前に氷底噴火で形成し、直後に火星に類似した環境で熱水変成作用を経験している。本繰越(翌債)期間中に大型放射光施設SPring-8の軟X線ビームラインBL27SUでのビームタイムを頂き、火星隕石とともに、この火星アナログ試料に含まれる炭酸塩鉱物や粘土鉱物などの変成鉱物について、窒素のX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルを測定した。その結果、火星アナログ中の粘土鉱物が還元的な窒素(アンモニウム塩)を濃集していることが示された。この試料のバルク窒素同位体分析を行った結果、母岩の採取地域周辺の海水と同程度の同位体比であることが予察的に示された。このことから、岩石の熱水変成時に海水または融氷水の成分が外部から取り込まれ、粘土鉱物に保存されたと予想される。かつての火星で同様のイベントが生じた場合、岩石中に窒素化学種情報が保持されていると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本繰越期間中に火星アナログ試料の窒素化学種解析を実施し、その粘土鉱物中に還元的な窒素が含まれていることが明らかとなった。さらに、予察的なバルク分析により、その同位体比がおおよそ海水程度の値であることが示された。しかし、火星アナログの窒素濃度は低く、正確な結果を得るためには十分な数・量の試料に対して再現性を検証する必要があることが判明した。この実施には当初計画よりも時間がかかることが見込まれる。さらに、同様の手法で分析した火星隕石では、窒素濃度がさらに一桁ほど低い(最大で数100ppm)ことが分かった。今後、さらなる高解像度分析や局所同位体分析を実現するためには、分析手法を抜本的に見直す必要があると言える。以上の結論と課題を踏まえて、総合的に現在の進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、主に火星アナログ試料と複数の火星隕石の窒素分析を行った。その結果、火星の様々な時代・場所の窒素化学種に関する情報が一定程度得られたが、主に試料の濃度・サイズ・X線ダメージへの脆弱性などの問題から、より高解像度の窒素化学種・同位体情報を得るには現状の分析手法を改良する必要があると結論付けられた。本補助事業は2023年度で終了となるため、まずは現在での成果と課題を一旦まとめる。その後の研究では、より高感度・低検出限界の局所XAFS法と同位体分析法の実現を試みる。火星隕石および火星アナログの高解像度窒素分析を実施し、火星における窒素の挙動と進化プロセスの解明を目指す。
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