2022 Fiscal Year Annual Research Report
表層と中層をつなぐ北太平洋オーバーターン:大陸からの淡水供給を介した陸海結合系
Project/Area Number |
21H01154
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白岩 孝行 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90235739)
植田 宏昭 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70344869)
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アラスカ湾 / 北太平洋オーバーターン / 河川流出水 |
Outline of Annual Research Achievements |
亜寒帯循環表層における低塩層の形成メカニズム解明に向けて、北米大陸からアラスカ湾への河川を介した淡水流出量の推定を進めた。アラスカ湾にそそぐ河川のうち、流量観測がある河川以外の小さな河川についても解析を進め、Soil and Water Assessment Tool (SWAT)を用いて流量推定を行った。小さな河川の総量は5大河川の流量を上回り、全流出量に重要な寄与があることがわかった。また、全流量とアラスカンストリーム塩分の年々変動の間に有意な相関があることが判明した。これらの結果は、アラスカ河川水の、海洋塩分ならびに大規模海洋循環への関与を示唆するものである。 アリューシャン低気圧が平年より強い年には、オホーツク海海氷面積の正偏差がオホーツク海上の北西季節風をさらに強化し、さらに海氷面積の正偏差を維持する、といった正のフィードバックの存在が示唆された。このアリューシャン低気圧の変動は、冬季のアラスカ湾降水量変動をもたらすと考えられる。 海水と淡水が潮汐によって 複雑に混合する別寒辺牛川の河川感潮域を対象に、陸から海への淡水輸送の素過程を観測した。ドップラー式超音波流向流速計を使用して河川流量の時間変動を観測し、求めた流出量を流域に降った降水量と関係づけて考察した結果、河口域の日流出量は、直前の5日間に流域に降った降水 量と良い相関関係があることを見出した。 北太平洋全域を計算領域とし、解像度2㎞の海洋大循環モデルOFES2を用い、アラスカ陸面からの淡水流出がAlaska Coastal Currentを通してアラスカ湾へと注ぐプロセスを調査した。また、大陸棚からの淡水供給・物質循環にとって大事な鉛直循環過程を探求した。その結果、陸からの河川水供給によって陸棚端に傾圧流が生じ、この温度風シアがもたらす鉛直応力が、陸棚域の鉛直循環の構造を大きく変えることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
河川を通したアラスカ湾への淡水供給について、5つの代表的な河川のみならず小さな河川の流量評価を実施し良好な結果を得た。また、淡水流量変化とアラスカンストリーム塩分の変化との間に有意な相関があったことから、本研究の仮説である、河川淡水の海洋循環への関与が示唆されたと考える。 アラスカ沿岸域の降水に重要な影響があるアリューシャン低気圧の変動に、南アジアからオホーツク海を介したテレコネクションが見出された。アリューシャン低気圧の変動とアラスカ湾での河川流量と比較することで、北米大陸沿岸域の気候変動との関連を調査する手がかりとなる。予備的な比較により、アリューシャン低気圧の変動の一部であるNorth Pacific Oscillation(NPO)とアラスカ湾での河川流量が有意な相関にあることが見いだされ、気候変動-降水-河川流出-海水塩分のシステムの理解に進展があった。 海水と淡水が潮汐によって 複雑に混合する別寒辺牛川の河川感潮域を対象に、陸から海への淡水輸送の素過程を観測した。潮汐による海洋の影響があり河口付近の流量時間変化は複雑であるが、流速計を使用して実測した結果、河口域の日流出量は、直前の5日間に流域に降った降水 量と良い相関関係があることを見出した。これは河川から海洋への物質輸送を考察するうえで重要な知見である。 高解像モデル出力の解析から、アラスカ沿岸での淡水輸送過程とその大陸棚循環・海洋大循環へのインパクトを明らかにした。さらに、高解像の北太平洋モデルに鉄-栄養塩サイクルを組み込み、物質循環モデルを開発している。現在、淡水に加え、熱や風を変動させた経年変動実験によりモデルのパフォーマンスを検討しているところであり、開発が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)環オホーツク地域および北米大陸の河川や氷河からの淡水流出量と変動の定量化 ①氷河からの淡水流出量評価のため。SWATへの氷河モデル組み込みを完了する。アラスカ大陸における代表的な河川および観測データが得られない河川流量に関して、SWATに大気再解析値を与えるとともに、校正したパラメータを用いることで流量推定を完了する。②環オホーツク地域の河川との比較のために、亜寒帯である北海道の河川も調査することによって、湿原における感潮域など、物質循環を含めた素過程研究を行う。 (2)亜寒帯表層塩分の分布はいかに形成されるのか 亜寒帯循環のデータ解析を行い、水温・塩分・流速分布や、それらと淡水供給との関係など、アラスカ河口域-大陸棚-亜寒帯循環間、および亜寒帯―亜熱帯間の海水交換に関する基本的情報を得る。そのうえで、カオス的輸送理論などを用い表層塩分の形成・維持過程を明らかにする。高解像度海洋大循環モデルを用いて淡水供給のON/OFF実験を行い、北太平洋の表層・中層循環に対する陸水のインパクトについて調査をおこなう。モデルを駆動する河川水として、(2)で求めた河川解析結果を参照する。 (3)海洋中層循環・物質循環に対するオーバーターン変動のインパクト 亜寒帯域大陸からの淡水供給の物質循環へのインパクトとそのメカニズムの解明のための海洋物質循環モデル開発を進める。(2)で開発する北太平洋モデルに鉄-栄養塩サイクルを組み込み、渦や沿岸流による物質輸送を表現する物質循環モデルを用いた数値実験を行う。北太平洋の顕著な低塩化に対する物質循環・生物生産の応答を調べる。
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Research Products
(32 results)