2021 Fiscal Year Annual Research Report
零熱膨張ガラスの熱弾性散逸機構の解明とそのデバイス応用
Project/Area Number |
21H01776
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
塚本 貴城 東北大学, 工学研究科, 准教授 (70646413)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | MEMS / 振動子 / 零熱膨張ガラス / Q値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,熱膨張率がほぼ零である結晶化ガラスを用いて,MEMS振動子の品質係数(Q値)を向上させるための研究を行う.MEMS振動子の性能を制限するもののひとつに熱弾性損失によるエネルギー損失がある.熱弾性損失の大きさは熱膨張率の2乗に比例するため,熱膨張率が小さい材料を用いることは,振動子の品質向上に大きく貢献する.しかしながら,零熱膨張ガラスを微細加工して,その振動特性を報告した例は無く,その加工特性や,熱弾性損失については不明な点が多い.そこで,本研究では,まずはじめに,零熱膨張ガラスの微細加工技術について検討する.微細加工の方法として,溶液を使ったエッチング,反応性イオンエッチング,モールディング,ガラス吹き加工などが考えられるので,それらを比較検討し,実験により検証する. 今年度は,反応性イオンエッチングについて主に検討を行い,エッチングマスクの作製方法,エッチングのための条件を検討し,最終的にエッチング形状,エッチングレート等について明らかにした.その結果,エッチングマスクとしては,電気めっきしたニッケル厚膜が十分に用を成すことがわかった.また,石英ガラスと同等の条件の下でエッチングが可能であることがわかった.表面形状については,含まれる不純物によると思われる微細な凹凸がみられ,側壁に若干のテーパが付くことがわかったが,エッチングレートは石英ガラスとほぼ同等であり,微細加工に十分適用可能であることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,反応性イオンエッチングを用いた,零熱膨張ガラスの微細加工の方法を確立した.SF6ガスとXeを混合したガスを用いたプラズマによって,零熱膨張ガラスが加工できることがわかった.このガラスは,結晶化のために様々な不純物が混入されているが,実験結果から,それらの不純物がエッチングを阻害することは無いことが明らかになった.これらの結果,零熱膨張ガラスのエッチング特性(エッチングレート,表面形状,側壁形状等)が明らかになった.また,パターニングに必須である,エッチングマスクの作製方法についても,確立し,今後行う,実際のMEMS振動子の微細加工に必要な条件を明らかにした.また,過去に多くの研究報告がある,石英ガラスを同条件でエッチングし,比較を行った.その結果,おそらく不純物の影響により表面粗さは若干増加するが,エッチングレートについては,有意な差がなく,同等に加工ができることが明らかとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得た結果を基に,MEMS振動子の設計,製作を行う.熱弾性損失は,熱膨張率の他に,動作周波数によってもその影響が大きく変わる.本研究では,零熱膨張ガラスを用いることによる熱弾性損失の変化を明らかにするのが目的であるので,熱弾性損失が最も顕著となる動作周波数で振動子を設計する.振動子の形状としては,単純な片持ち梁や,折り返しばねと集中質量を用いたものなどを比較検討し,最適なものを選択する.実際のMEMS振動子を作製するためには,零熱膨張ガラスを基板に接合する技術が必要となる.振動子となる零ガラス層と,基板との接合方法は熱弾性損失以外の主な損失源である支持損失を増大する可能性があるので,注意深く検討する.まずは,陽極接合,金を用いた熱圧着,共晶接合などを検討し,必要に応じて予備実験を行い,最適な方法を決定する. また,比較のために,既存の材料(ホウ珪酸ガラス等の熱膨張率以外はほぼ同等の物性を持った材料)を用いた同形状の振動子を作製し,振動特性を比較することで,零熱膨張ガラスを用いることによる熱弾性損失の低減効果を確認する. これらの実験と並行して,数値計算(FEM等)により熱弾性損失やQ値の推定を行い,実験結果と比較することで,振動子内部の熱の流れやエネルギー損失につについて考察する.
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