2022 Fiscal Year Annual Research Report
初期胚分化制御機構の解明に基づくウシガラス化保存胚の発生能改善
Project/Area Number |
21H02336
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
川原 学 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (70468700)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳川 洋二郎 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (20609656)
唄 花子 北海道大学, 農学研究院, 助教 (60775443)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 初期胚発生 / 細胞分化 / Hippo経路 / Nf2 / ガラス化保存 / Yap1 |
Outline of Annual Research Achievements |
個体発生の第一歩となる胚盤胞期では、胎子側と胎盤側に運命が分かれる時期であるとともに、ウシでは個体生産に重要な受精卵移植に供される発生ステージである。したがって、胚盤胞期胚の胎子側(ICM)および胎盤側(TE)への細胞分化機構を解明することは、生物学的にも動物生産の効率化のためにも不可欠である。本研究では、細胞分化制御に重要なYAP1局在に及ぼす細胞膜/細胞骨格関連タンパク質NF2の役割をマウスおよびウシ胚を用いて明らかにするとともに、得られた基礎的知見を栄養外胚葉細胞のYAP1核外流出が問題となるウシガラス化保存胚の発生能改善に結び付ける。 NF2の局在を調べるために、NF2-GFP融合タンパク質を生細胞イメージングで解析し、同様の実験系をウシ胚でも適用した。マウス胚では、細胞極性が確立する8細胞期周辺でNf2タンパク質の頂端膜局在が減衰することを見出し、NF2の極性細胞における役割の解明につながる基礎的な知見を得た。ウシ胚では、そもそも極性確立の時期が明らかになっていなかったため、極性マーカーであるEZRIN局在を分析し、極性確立の時期を初めて明らかにした。また、YAP1局在保持に留意した新たなガラス化保存法の開発に向けて、ガラス化処理のどの段階でYAP1局在が異所性の様式に変化するのかを免疫染色によって決定し、ガラス化保存液に投入直後からYAP1局在が細胞質局在に変化することを見出した。解析をさらに深め、細胞質に流出するYAP1タンパク質をアクチン細胞骨格安定処理によって防除し、体外培養下における発生率への影響を検証するとともに、個体までの発生能を確認するため受精卵移植試験も実施し受胎性の確認まで研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は構成上二つに分けられる。一つは、哺乳類初期胚分化制御における分子機構の解明であり、これについては主にマウス胚を用いてアダプター分子Nf2と極性マーカーEzrin、そして分化制御を担うYap1のリン酸化を担うLats2、これらNf2-Ezrin-Lats2の局在制御をタンパク質一次構造に着目して詳細に分析を行った。その結果、将来栄養外胚葉TEに分化する外側細胞において、細胞極性Ezrin局在にアダプタータンパク質Nf2の局在が関わっており、これがLats2の頂端膜局在に必要であることを初めて明らかにすることができた。これらの研究結果は、哺乳類初期胚の胎盤系列細胞であるTEの分化制御において新しい知見であり、多様な生命現象に関わるHippo経路の理解を深めるものである。ウシ胚でも同様の試験を実施し、概ねマウス胚と同様の機構が保存されていることを確かめたため、哺乳類初期胚に共通した事象であることも示された。二つ目は、細胞分化を制御するHippo経路の重要分子であるYAP1タンパク質局在に着目した新たなウシ初期胚ガラス化保存法開発への試みである。我々が見出したウシ胚特有のYAP1タンパク質局在の細胞質流出現象が、ガラス化保存処理時に観察されることを証明するために、ガラス処理に伴うYAP1タンパク質局在の動向を解析した。その結果、YAP1はガラス化保存液に投入直後に流出することが判明した。最終年度は流出の主要な原因と考えられるアクチン細胞骨格の重合安定化によりYAP1局在を安定化させ、その処理が胚盤胞期あるいは我々が開発した成熟胚盤胞期胚への発育に及ぼす影響を発生率あるいは種々の分化マーカーの局在解析を通じて検証し、研究計画を達成する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策として、細胞分化におけるNf2の生細胞イメージングによる局在解析を他の分子との相互作用を分析することで深めていく。具体的には、これまでに作成したNf2およびLat2の変異型に加えて、EzrinとLats2の相互作用阻害試験を行い、Yap1局在への影響を調べる。また、極性確立がマウス胚とは全く異なる時期であることが判明したウシ胚におけるYap1局在解析を行う。これについては、既に進行中でマウス胚とは異なりTEにおける核内局在確率前のウシ胚固有のYAP1局在変化をすでに明らかにしており、従来信じられてきたHippo経路とは独立したYAP1局在制御が存在する可能性がウシ初期胚を使った試験で確認されたため、この現象を多面的に解析し哺乳類初期胚発生機構解明の知見へと深める。また、YAP1核外流出に留意した新規ガラス化保存法として申請者らが独自に開発した新規ウシ胚培養系を用いて作出したより強固な細胞骨格を保持したウシ胚のガラス化保存を行い、体外および体内における発育能を細胞分化マーカーおよび胚移植試験による受胎能力の評価という観点で明らかにしていく予定である。
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