2021 Fiscal Year Annual Research Report
DNAメチル化を基盤としたヒト心筋細胞発生分化機構の制御に関する研究
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21H02381
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
西野 光一郎 宮崎大学, 農学部, 教授 (90508144)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヒトiPS細胞 / 分化指向性 / DNAメチル化 / 心筋分化 / オミクスデータ / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、心筋細胞分化の阻害となるヒトiPS細胞内分子ネットワークの同定とその制御を通して、心筋発生分化の理解の深化を目指すことである。 ヒト心筋発生を研究する上でiPS細胞は有用なツールであるが、一方でヒトiPS細胞の特性は変化を受けやすい側面を持ち、同一細胞株にもかかわらず異なる施設間で特性が変化する事例は多く報告されている。それ故ヒトiPS細胞の分化指向性を解析し、その制御に関する研究は重要な課題である。心筋細胞への分化効率の異なるiPS細胞株を多数解析し、心筋細胞分化効率に影響を及ぼす分子ネットワークを同定することは、多分化能の維持機構のみならず、心筋発生の分子機序を解明することになる。 本研究では、多数の未分化ヒトiPS細胞から得られる網羅的DNAメチル化データ、遺伝子発現データとAI技術の一つである機械学習を組み合わせ、未分化状態のヒiPS細胞のデータから心筋細胞への分化効率を予測する学習モデルを構築し、さらに学習モデルの要素解析から心筋細胞分化の阻害となるヒトiPS細胞内分子ネットワークの同定と多分化能の維持機構の解析を進めている。 本研究を遂行するためには、クオリティーの高い良質な網羅的データを取得することが重要であり、本年度はヒトiPS細胞20株について、未分化状態時の網羅的DNAメチル化情報、網羅的遺伝子発現情報を取得した。さらに同一サンブルにおける心筋細胞分化誘導を行い、各株の分化効率実測値データの取得を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、約40株のヒトiPS細胞の網羅的DNAメチル化データを中心に遺伝子発現データと心筋細胞分化誘導効率実測値データを収集し、機械学習により解析する計画である。 本研究を遂行するための実験計画の柱は2つである。一つ目は、精度の高い学習モデル構築のためのクオリティーの高い良質な網羅的データを取得すること、二つ目は、機械学習による学習モデルの構築である。本年度は、機械学習に用いる良質なデータの収集を中心に行った。 ヒトiPS細胞、20株の培養とサンプル調製:申請者はこれまで多数のヒトiPS細胞を樹立し、多くの株を保有している。これらの株とiPS研究所で樹立された株を合わせて20株を培養し、ゲノムDNAおよびRNA抽出用の解析用サンプルおよび心筋分化誘導実験に供するiPS細胞の調製を行い完了した。本研究では申請者がヒトiPS細胞の培養・維持からサンプリング、心筋細胞分化誘導実験までを一貫して行うことで、ヒトiPS細胞の品質およびデータのクオリティーを確保している。 網羅的分子データの取得:得られたヒトiPS細胞20株全てにおいて、網羅的DNAメチル化情報、網羅的遺伝子発現情報を取得した。ヒトiPS細胞の同一株由来の複数の網羅的データセットは公共のデータベースにおいてもほとんど存在しないため、貴重なデータとなる。 心筋細胞分化効率の実測値測定:ヒトiPS細胞20株全てにおいて心筋細胞分化誘導を行い、心筋細胞マーカーであるcTnT抗体により免疫染色後、フローサイトメーターにより心筋細胞の割合を測定し、各株毎の心筋細胞分化効率を算出した。ヒトiPS細胞の培養・維持から分化誘導までを一貫して行えることで、同一株由来の網羅的データセットに完全に対応した心筋細胞分化効率データを取得することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
機械学習による精度の高い学習モデル構築のためには、より多くのデータが不可欠である。本研究では、少なくともヒトiPS細胞40株のデータ取得を計画している。2022年度は引き続き機械学習に用いる良質なデータの収集のために追加20株についてヒトiPS細胞の培養とサンプル調製、網羅的分子データの取得、心筋分化効率の実測値測定を進めていく。ヒトiPS 細胞から分化誘導実験までを一貫して行うことで,細胞ロット間の性質の差異を正確に評価し、解析することが可能なデータセットを取得することは、本研究の特色であり,利点である。 本研究で計画しているヒトiPS細胞40株の使用は、ヒトiPS細胞研究では大規模であるが、本来、AIを用いた解析では数万のヒトiPS細胞株とその分子データが必要とされる。しかし生命科学では検体数の制限があり、数万の分化誘導実験を行うことは現実的には困難である。そこで本研究ではニューラルネットワークと比較して少ないサンプル数にも対応可能な分類や回帰等による機械学習の適応を試みている。既に取得済みのデータを用いて機械学習による学習モデル構築のための基盤設定、各種ハイパーパラメータの設定、データマイニング、学習手順の設定など最適な学習手順の構築および学習モデルのバリデーション法の検討を進めている。機械学習には線形分類、線形回帰を基本として用いていくが、より精度の高い判別モデルを構築するためにHSIC-Lassoや複数のアルゴリズムも同時に検討し、特徴量選択法の検討も進めていく。
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Research Products
(2 results)