2021 Fiscal Year Annual Research Report
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21H02764
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
諸石 寿朗 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (30647722)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鉄代謝 / がん / 免疫応答 / 炎症 / シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、腫瘍微小環境における鉄代謝動態の俯瞰、がん細胞および免疫細胞における鉄代謝の変容と腫瘍進展の関連解析について、それぞれ研究を進めた。腫瘍微小環境における鉄の動態を組織鉄染色法にて評価したところ、大腸がんにおいてマクロファージの鉄代謝が変容していることを見出した。そこで、マクロファージにおける鉄代謝の変化と免疫応答の関連性を調べるため、in vitroの実験系にて鉄過剰および鉄欠乏条件下におけるマクロファージのサイトカイン産生能をRNAシーケンス解析により比較した。その結果、細菌表面に存在するリポ多糖(LPS)に応答したマクロファージのサイトカイン産生能が、鉄欠乏条件下において減弱することを見出した。さらに、このメカニズムとして、鉄欠乏条件下ではLPSに応答する転写因子NFkBの活性が減弱することを明らかにした。 さらに、がん細胞における鉄代謝の変容と腫瘍進展の関係についても解析を進めた。肺がん細胞において、ゲノム編集を用いて鉄代謝制御因子FBXL5およびIRP2を欠失させた細胞を作出し、鉄代謝の変容とがん細胞の増殖の関係を調べた。その結果、鉄代謝の変容によりがん細胞のin vitroにおける足場非依存的増殖が抑制されることが分かり、これは細胞周期のG1期からS期への進行が遅延するために起こることを見出した。さらに、マウスに移植した肺がん細胞も同様に鉄代謝の変容により腫瘍増殖が抑制されることがわかった。 以上の研究成果をふまえ、鉄代謝と炎症応答および腫瘍進展の関係性について学会発表を行い、論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では腫瘍微小環境における鉄代謝と腫瘍進展の関係性を解明することをめざし、「1.腫瘍微小環境における鉄代謝動態の俯瞰」、「2. がん細胞における鉄代謝の変容が腫瘍進展に及ぼす影響の解明」、「3. 免疫細胞における鉄代謝の変容が腫瘍進展に及ぼす影響の解明」に取り組んでいる。 1.については、大腸癌のサンプルを用いて鉄染色を行ったところ、腫瘍微小環境に存在するマクロファージに鉄が蓄積していることを見出した。そこで、研究項目3において、マクロファージにおける鉄の蓄積と腫瘍進展の関係を調べることにした。 2.については、肺がん細胞株において鉄代謝の中心的な制御因子であるFBXL5およびIRP2をCRISPR-Cas9によるゲノム編集を用いて欠失させ、鉄代謝の変容とがん増殖の関係を調べた。その結果、鉄代謝の変容によりin vitroでのがん細胞の増殖が抑制されることが分かり、これはマウスに移植した場合も同様であった。さらに、このようながん細胞では細胞周期のG1期からS期への移行が遅延することも見出した。 3.については、上述のようにマクロファージにおける鉄代謝の重要性が示唆されたため、in vitroの実験系にてマクロファージのサイトカイン産生能と鉄代謝の関係性をRNAシーケンス解析により調べた。その結果、鉄欠乏条件下ではマクロファージのサイトカイン産生能が減弱することが分かり、これは転写因子NFkBの低下によるものであることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本年度より引き続き、細胞を用いた分子生物学・生化学実験によるメカニズムの解明、および、マウスを用いた腫瘍微小環境の解析を遂行する。 1.に関しては、ヒト大腸がんにおける鉄代謝動態についての情報が得られており、一定のマイルストーンは達成されたものと考える。一方、がん種横断的な比較解析についても検討する必要があるため、他のがん腫を用いて同様の解析を進め、腫瘍進展と鉄代謝変容の相関についてより広範な情報を得る。また、鉄量を調べる組織鉄染色法だけではなく、利用可能な抗体があるものについては鉄代謝関連分子の免疫組織染色を行い、鉄動態を詳細に調べる。 2.に関しては、鉄代謝の変容に伴う細胞周期遅延のメカニズム解析を進める。また、マウス移植モデルにおいて、がん細胞における鉄代謝の変容と周囲に存在する正常細胞や免疫細胞との相互作用を調べる。 3.に関しては、マクロファージにおける鉄代謝の変容と炎症・免疫応答に関する論文を投稿・リバイス中であり、論拠の弱い部分についてデータを補強する。さらに、マクロファージ以外の樹状細胞(CD11c-Cre)やT細胞(Lck-Cre)およびB細胞(Mb1-Cre)におけるFBXL5欠損マウスを作出し、このマウスにシンジェニックがん細胞株を移植することにより、免疫細胞における鉄代謝の変容と腫瘍増殖の関係を調べる。これらのマウスは既に作出済みであり、今後はマウスにがん細胞の移植実験を行う。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] The relationship between Fusobacterium nucleatum and iron in colorectal cancer2021
Author(s)
Taishi Yamane, Hiroshi Sawayama, Kosuke Mima, Masaaki Iwatsuki, Yoshifumi Baba, Takatusgu Ishimoto, Shiro Iwagami, Yuji Miyamoto, Naoya Yoshida, Toshiro Moroishi, Hideo Baba
Organizer
第80回日本癌学会学術総会
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