2021 Fiscal Year Annual Research Report
Role of Spred2 in the pathogenesis of cancer and its application for cancer thepapy
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21H02988
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
松川 昭博 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (90264283)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 嘉浩 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (40192497)
吉村 禎造 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 非常勤研究員 (50174991)
宮武 秀行 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50291935)
阪口 政清 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (70379840)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シグナル伝達・抑制 / 炎症とがん / ERK-MAPK / Spred2 / 低分子医薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)がんの増殖・転移・幹細胞性獲得におけるSpred2の役割解明 肝がん細胞株(HepG2, HepG3, HLE)のSpred2をノックダウンすると細胞増殖能はいずれも増加した。最もSpred2発現の多いHepG2細胞からCRISPR-Cas9法でSpred2を消去した細胞を作製し、がん細胞特性を確認した。その結果、がん細胞増殖能・浸潤能は増加し、細胞形態は紡錘形に変化、上皮間葉移行と幹細胞性は増強した。これらの変化は、Spred2の過剰発現で逆転した。Spred2発現は非がん部に比較してがん部で低く(データベース上、および自験例の検討)、Spred2高発現肝がん患者では低発現患者に比べ有意に予後は高かった(データベース解析)。以上より、Spred2は、ERK経路を抑制し、がん細胞のEMTや幹細胞性を負に制御することを明らかにした(現在、論文投稿中)。 2)ヒトがん組織におけるSpred2の発現 275の尿路上皮腫瘍の検討結果から、Spred2 mRNA発現は高異型度非浸潤性乳頭状尿路上皮癌 (HGPUC)で最も高く、上皮内癌 (CIS)と浸潤性尿路上皮癌 (IUC)で低下し、Spred2タンパク発現はHGPUCで高く、CISとIUCではHGPUCに比べて減少していることを見いだした。HGPUCでSpred2膜発現を示すものはSpred2膜陰性のものと比べ、ERK活性化レベルとKi67 indexが有意に低かった。以上より、Spred2は非浸潤性膀胱癌の進展を調節する鍵であるものと考えられた(PLoS One. 2021 Nov 24;16(11):e0254289)。 3)Spred2のがん治療への応用 SPR-domainのみのSpred2に加え、さらなる短鎖Spred2プラスミドを6種類作製した。これらを用いて、全長Spred2との活性比較を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以下の4つの観点で研究を進めている。 ①がんの増殖・転移・幹細胞性獲得におけるSpred2の役割解明:Spred2欠損HepG2細胞およびSpred2過剰発現HepG2細胞を用いた検討から、内因性Spred2はがん細胞の増殖・転移・幹細胞性獲得を負に制御していることを明らかにし、研究成果を学術論文雑誌に投稿している(under review)。より詳細な分子制御機構を解明すべく、Spred2によるmicroRNAおよびエクソソームの制御を検討している。Spred2はp53と結合して核内に入り、miR-506-3pの発現調整を介して幹細胞性を制御していることを見いだしている(論文作成準備中)。また、T細胞性肝炎モデルでのSpred2の役割も明らかにした(J Adv Res. 2021 Apr 20;35:71-86)。 ②ヒトがん組織におけるSpred2の発現:肝がん病理検体を用いた検討から、Spred2発現は非がん部で高く、がん部で低いことをデータベース上、および自験例で示し、Spred2高発現肝がん患者は低発現患者に比べて生存率は高いことを明らかにした。自験例の膀胱がん病理検体解析から、Spred2は非浸潤性膀胱癌の進展を調節する鍵である可能性を示した。現在、死因第1位である肺腺がんでの検討を行っている(論文作成中)。 ③がん炎症細胞社会でのSpred2の機能解析:Balb/cバックグランドのSpred2欠損マウスを作製・繁殖に成功した。同Spred2欠損マウスおよび野生型マウスに乳がん細胞株4T1(Balb/c由来)を埋植し、がんの生着状況、肺転移の頻度、がん細胞周囲の細胞組織環境の比較検討を行っている。これにより、がん周囲環境のSpred2の有無が、がん細胞増殖・進展・転移に及ぼす影響を解明できる。 ④Spred2のがん治療への応用:データベース構造解析から、SPR-domainの短鎖Spred2よりさらに短鎖で、ERK経路抑制効果の期待できるSpred2発現プラスミド6種の作製に成功した。これら7種の改変Spred2の検討からSpred2創薬にむけて展開中である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の成果を発展させるため、以下の4分野の研究を分担者および研究協力者とともに推進する。 1)がんの増殖・転移・幹細胞性獲得におけるSpred2の役割解明:初年度は、肝がん細胞を用いて検討を行った。本年度は異なるがん細胞株での検討を行い、加えて、以下の観点からSpred2の機能を解明する。・がんの性質の変化:細胞増殖能、運動・浸潤能、EMT、幹細胞性を指標に検討する。・Spred2とmiRNAの関係:Spred2によるmiRNAを介した免疫反応を明らかにする。・Spred2とエクソソーム:Spred2によるエクソソーム発現調節機構を明らかにする。 2) ヒトがん組織におけるSpred2の発現:初年度は、膀胱がん、肝がんでの検討を行った。今年度は肺がん・乳がんについて自験例で解析する。組織亜型での発現量の違い、関連因子(ERK、AKT、Ki67、p53など)との関係を探る。 3)がん炎症細胞社会でのSpred2の機能解析:Balb/c由来4T1乳がん細胞での研究を行うため、初年度にBalb/c-backgroundのSpred2欠損マウスの安定供給体制を確立するとともに、同マウスに4T1を接種して解析を行っている。本年度も背景組織におけるSpred2の有無が、がん増殖に及ぼす影響を明らかにする。マクロファージ特異的Spred2欠損マウスでの検討も行う。 4)Spred2のがん治療への応用 初年度に作製したSpred2改変体(Raf結合部位にターゲットを絞った短鎖Spred2)を用いて、より選択制の高い低分子Spred2を特定し、その安定製造を図る。また、動物実験での効果をみる。
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