2022 Fiscal Year Annual Research Report
原始地球上での核酸合成に関する新展開:地球外からの材料供給の可能性に迫る
Project/Area Number |
21H04501
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大場 康弘 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (00507535)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高野 淑識 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学センター), センター長代理 (80399815)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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Keywords | 核酸 / 地球外物質 / 核酸塩基 / 分子進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
小惑星探査機「はやぶさ2」によって炭素質小惑星リュウグウから回収されたサンプルから,核酸塩基や関連化合物検出を試みた。10mg程度のリュウグウ試料から熱水抽出し,さらに得たサンプルの一部を酸加水分解した。酸加水分解生成物を液体クロマトグラフ―オービトラップ型超高分解能質量分析計にて分析した。同時に,Orgueil隕石(小惑星リュウグウとその成分が近いと考えられているもの)も同様のプロセスで分析し,対象化合物の分布や存在量を比較した。リュウグウ試料からは地球上のすべての生命に存在するリボ核酸(RNA)の構成成分の一つ,ウラシルが検出された。これは地球外環境で採取されたサンプルからの初めての核酸塩基検出例となった。さらにウラシルの構造異性体,2種類のイミダゾールカルボン酸も検出された。これらの分布はOrgueil隕石と類似していたことから,小惑星リュウグウはCIタイプに分類されるという先行研究の考察を支持するものである。 リュウグウ試料から,ニコチン酸(ナイアシンまたはビタミンB3)をはじめとする種々の窒素複素環化合物が検出された。ニコチン酸は生命の代謝に不可欠な働きを示すことから,核酸塩基と同様に原始地球上での化学進化への寄与が示唆された。 検出された窒素複素環化合物の中に,本研究で最も注目している化学種,オキサゾールのアルキル基置換体(総炭素数<27)が多種検出された。オキサゾール類は原始地球上での核酸塩基を経由しない核酸生成材料として期待されており,地球外環境から供給されたオキサゾール類が原始地球上での核酸生成に寄与した可能性を初めて示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
小惑星リュウグウ試料からの核酸塩基やその前駆体となりうる化合物など,種々の窒素複素環化合物を検出することに成功し,大きな知見を得ることに成功したため。
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Strategy for Future Research Activity |
種々の炭素質隕石からの核酸塩基およびその関連化合物,とくに核酸生成の前駆体となりうる窒素複素環化合物を検出し,それらの種類や存在量を比較する。それにより,それら窒素化合物の地球外物質中での分布を網羅的に解釈し,それぞれの隕石が経験したとされる変質プロセスとの関連性を検討し,太陽系形成までのプロセスがどのように窒素複素環化合物分布に影響したのか,そしてそれが原始地球上での核酸合成とどのように関連したのか議論する。 また,2023年9月に地球に帰還予定の小惑星ベヌーで採取されたサンプル分析もおこない,核酸塩基等化合物の検出を試みる。
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