2022 Fiscal Year Annual Research Report
ほ乳類性決定遺伝子Sryの作用機序とそのゲノム進化過程の抜本的な見直し
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21H04769
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
立花 誠 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 教授 (80303915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮脇 慎吾 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70756759)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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Keywords | 性決定遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちは、マウスのSry遺伝子座にはこれまで見過ごされてきた第2エキソンが存在することを2020年に見出した。さらに、その第2エキソンがコードする新規SRYタンパク質(SRY-T)が、生体内で実際に機能する真の性決定因子であることも明らかにした(宮脇と立花らScience 2020)。この成果を踏まえ、以下の3つの研究テーマを推進した。 ① SRY-Tのパートナー分子と標的遺伝子の同定によるオス化の分子機構の解明:SRY-TーTurboIDをマウスES細胞に安定的に発現させ、それによって特異的にビオチン化されるタンパク質を複数同定した。そのなかには、生殖腺の成熟と分化に必要なzinc-fingerタンパク質であるWT1が含まれていた。WT1はSRY-SとSRY-Tの双方と相互作用することが明らかになった。現在、WT1とSRYの結合に必要な双方のアミノ酸を同定する実験を進めている。 ② SRT-TをコードするSry第2エキソンの進化(exonization)に関する研究と考察:実験用マウス以外のネズミのSRYのアミノ酸配列を明らかにすることで、Sryのゲノムの進化を検証する。特に、マウスSRY-Sタンパク質に存在するC末のデグロン配列が他のマウス種で見つかるかどうかが、最も重要である。具体的な実験では、オスであることが確認できているヨーロッパモリネズミの全ゲノムシーケンスを実施済みであり、現在は解析途中である。 ③ SRY-Sを標的としたタンパク質分解機構の解明:SRY-SのC末端の18アミノ酸は、ユビキチンE3リガーゼによって分解される際の認識配列(デグロン)である(宮脇と立花らScience 2020)。この情報をもとに、SRY-Sを分解するE3を同定するため、当該配列をC末端に有するEGFP(EGFP-S)を発現する大腸がん細胞を樹立した。この細胞でCRISPR-KOスクリーニングを行った結果、HECTファミリーユビキチンリガーゼである、Ube3cが同定された。さらに、Ube3cの欠損でEGFP-S18が安定化することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
① SRY-Tのパートナー分子と標的遺伝子の同定によるオス化の分子機構の解明 おおむね順調に進んでいる。生殖腺の成熟と、オス化にもメス化にも重要なタンパク質であるWT1がSRYと相互作用することを見出したことは大きな進展であった。その他にも、いくつかの核内タンパク質がSRY-Tによってビオチン化されることをを見出しており、293T細胞を使った過剰発現実験によっても、これらのタンパク質とSRYとの相互作用が確認されている。 ② SRT-TをコードするSry第2エキソンの進化(exonization)に関する研究と考察 Y染色体の配列は極めて情報が乏しい。このため、ごく限られた動物を除き、SRYの配列はほとんど明らかになっていない。ヨーロッパモリネズミのSRY配列が明らかになれば、Sryの第二エクソンがどのようにして誕生したのかが明らかになり、我々が提唱しているSRY-Tタンパク質の進化モデルが正しいかどうかが分かる可能性がある。 ③ SRY-Sを標的としたタンパク質分解機構の解明 SRY-Sを分解するE3酵素については、CRISPR-KOによってUbe3cが同定されたことは大きな進展である。この他にも、プロテアソーム阻害剤の存在下でSRY-SーTurobIDによってビオチン化されるユビキチンE3リガーゼを複数同定している。これらSRY-S分解のE3候補のなかで、SRY-T-TurboIDによるビオチン化のレベル、並びにEGFP-TurboID(コントロール)によるビオチン化のレベルが有意に低かったE3リガーゼ二つに注目している。現在はそれらの変異体を作製し、SRY-Sタンパク質が安定化されるかどうかを検証している。
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Strategy for Future Research Activity |
① SRY-Tのパートナー分子と標的遺伝子の同定によるオス化の分子機構の解明 WT1とSRYの結合に必要なアミノ酸を同定する。WT1との結合が無くなるようなSRYの点変異を、マウスのSry遺伝子座に導入(ノックイン)し、オス化が阻害されるのかについて検証する。同様に、SRYとの結合が無くなるようなWT1の点変異を、マウスのWt1遺伝子座にノックインし、オス化が阻害されるのかについて検証する。それらの変異がDNA結合にも影響するような場合には、タンパク質相互作用とDNA結合との関係を、生化学的に明らかにする。 ② SRT-TをコードするSry第2エキソンの進化(exonization)に関する研究と考察 ヨーロッパモリネズミの全ゲノムシーケンスから、SRYの配列を導き出す。ただし、全ゲノムからSry配列を見出すのは非常に困難である可能性も高い。その場合は、フローサイトメーターによってY染色体のみを濃縮する技術を導入する。あるいは、性決定期の胎仔から生殖腺を摘出し、RNAを精製してmRNAシーケンス解析を行う。 ③ SRY-Sを標的としたタンパク質分解機構の解明 Ube3cがEGFP-S18のみならず、全長のSRY-Sタンパク質の分解にも関わってるのかについて明らかにする。具体的には、SRY-Sを安定的に発現する細胞株を樹立し、CRISPR/CasでUbe3cを欠損させる。SRY-Sタンパク質の量が増加するのかどうかを、イムノブロットで明らかにする。SRY-S-TurboIDで取れてきた他のE3候補についても、同様の検証を行う。
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