2021 Fiscal Year Annual Research Report
The in vivo roles of polyunsaturated fatty acid species
Project/Area Number |
21H04798
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
横溝 岳彦 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (60302840)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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Keywords | 不飽和脂肪酸 / アラキドン酸 / ドコサヘキサエン酸 / エイコサペンタエン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
高度不飽和脂肪酸(PUFA)は、α-リノレン酸やリノール酸などの必須脂肪酸から生合成される、生命現象に必須の分子群であるが、個々のPUFA分子種の詳細な機能や役割は明らかになっていない。本研究では独自に作製したPUFA欠乏マウスで観察される異常(男性不妊、貧血、脂肪肝)に着目し、どのPUFA分子の欠乏がこれらの異常を引き起こしているのかを明らかにし、特定のPUFA分子によるレスキューを試みた。FADS2は精巣のライディッヒ細胞に高く発現しており、男性ホルモンの産生に促進的に働いていることが明らかとなった。PUFA欠乏マウスでは、男性ホルモンの産生が大きく減少し、そのため、精子形成が正常に行えないために男性不妊の表現型を示すことが分かった。現在、男性ホルモン産生に必須のPUFA分子種の同定を行っている。さらにそのPUFA分子種が、どのような分子メカニズムで男性ホルモン産生を促進しているについても検討を行う予定である。貧血に関しては、PUFA欠乏マウスの赤血球が、シアストレスに代表される物理的ストレスに対して脆弱となっている可能性を見いだしており、この赤血球の恒常性に必要なPUFA分子種の同定も行いたい。これらを通じて、これまで一括りにしてしか論じられてこなかったPUFA分子の個々の機能や役割分担をあきらかにすると共に、近年の魚食の減少によって引き起こされていると考えられているメタボリック症候群や不妊症に対する、PUFA補充による介入の理論的基盤を構築する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脂肪酸不飽和化酵素FADS2の遺伝子欠損マウスを樹立し、高度不飽和脂肪酸(PUFA)除去食を一定期間摂食させることで、PUFA欠乏マウスを作成した。質量分析計を用いた脂質一斉定量系を用いて、諸臓器の脂質組成の変化を観察した。肝臓や赤血球では、ほとんど全てのPUFA含有リン脂質組成が大きく減少していたが、脳においてはドコサヘキサエン酸含有リン脂質の減少が軽微であった。PUFA欠乏マウスは、男性不妊、貧血、脂肪肝など、様々な表現型を呈した。男性不妊に関しては、精子の形成異常が観察されたことと、男性ホルモンを産生するライディッヒ細胞でFADS2が高発現していたため、男性ホルモン産生におけるFADS2の役割の解明を試みた。化学修飾を加えることで、ステロイドホルモンのイオン化が促進されることを見いだし、質量分析計を用いて、相当数のステロイドホルモンを一斉に定量する測定系を確立した。本法を用いた解析により、PUFA欠乏マウスではテストステロンやアンドロステロンの産生が大きく減少していることを見いだしため、ライディッヒ細胞の細胞株であるMA-10細胞を入手し、in vitroのホルモン産生系を確立した。PUFA欠乏マウスの精巣や、MA-10細胞では特定のPUFAが男性ホルモン産生に必須である事を見いだしつつある。PUFA欠乏マウスの貧血に関しては、赤血球のPUFA含有リン脂質が減少する結果、シアストレスに対して脆弱な赤血球となっているという予備的データを得ており、今後、詳細なメカニズムの解明を行うとともに、この表現型をレスキューできるPUFA分子種の同定を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)精子形成不全を引き起こすPUFA欠乏の解析 Fads2欠損マウスは、餌からPUFAを抜くと男性不妊となる。特定のPUFA分子種がライディッヒ細胞への分化とステロイドホルモン産生に必須との仮説のもと、以下の実験を行う。(1)確立した質量分析計を用いたステロイドホルモン定量系をもちいて、ステロイドホルモン産生におけるPUFAの役割をあきらかにする。ライディッヒ細胞由来でテストステロンを産生するMA-10細胞のホルモン産生を、PUFA存在下・PUFA欠乏状態で比較する。PUFA欠乏状態のMA-10細胞にそれぞれのPUFAを添加し、ホルモン産生をレスキューするPUFA分子種を同定する。また、ステロイドホルモン産生に関わるチトクロームP450分子群や核内受容体の発現に与えるPUFA欠乏やPUFA添加の影響をあきらかにする。最終的には、in vitroで同定したPUFA分子種をPUFA欠乏マウスに投与し、精子形成不全と不妊をレスキューできるかどうかを検討する。
(2)貧血を引き起こすPUFA欠乏の解析 PUFA欠乏マウスは、赤血球数と血中ヘモグロビン濃度の低下を伴う貧血を呈した。昨年度の研究から、PUFA欠乏マウスではシアストレスを加えた際の変形能が大きく低下していることが明らかとなった。そこで、PUFA欠乏で大きな変動を来している細胞膜リン脂質分子種を同定し、そのリン脂質に含まれるPUFAで貧血がレスキューできるかどうかを検討する。この解析においては、特定の分子種のPUFAではなく、柔らかくフレキシブルなPUFAの物理的な特性によって表現型が生じている可能性も念頭において解析を行う。近年、細胞膜中のPUFAが圧力感受性イオンチャネルPiezo1の開閉をコントロールするという報告があるため、Piezo1作動薬や拮抗薬を用いて、PUFA欠損による貧血との関わりを明らかにする。
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Research Products
(27 results)