2021 Fiscal Year Research-status Report
戦時下の日本におけるドイツ映画の受容についての研究
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21K00211
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 佳樹 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (90240134)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 満洲映画協会 / ドイツ映画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、満洲映画協会の広報宣伝誌『満洲映画』の記事をてがかりに、初期満映とドイツ映画の関係を考察した。 『満洲映画』創刊号日文版には、ドイツ映画に寄せるふたつのまなざしが見てとれる。ひとつは、ハリウッドの各社が満州国における満映の配給権独占に反対して輸出を停止したことを受け、配給面でそれまで満洲国における最大勢力だったアメリカ映画の穴埋めを期待するまなざしである。もうひとつは、満映がこれから製作していく新しい映画の模範としてドイツ映画を見るまなざしである。ドイツ映画にこのようなまなざしが向けられた理由はふたつあり、第一に、ドイツ映画が文化的・芸術的に高水準にあると考えられたこと、第二に、ドイツ映画が共産主義や自由主義の思想侵略に対抗する点で、日本や満州の政治的立場に近いことであった。 『満洲映画』から満洲国における封切状況を調べると、封切数は日本映画が圧倒的に多く、次いで上海映画、満洲映画、ドイツ映画となる。アメリカ映画の穴を埋めて、中国人観客に対する上海映画の影響の拡大を阻止する使命を帯びたのは、ドイツ映画ではなく日本映画であった。(だが実際には、中国人観客が日本映画を見に行くことはまれだった。) また、複数の論者が、ナチスの政治的介入によってドイツ映画の芸術性の高さが損なわれてしまったと説き、映画統制の悪例という烙印を押している。さらに、日独合作映画であるアルノルト・ファンク監督の『新しき土』(1937)は繰り返し批判の俎上に載せられ、満映の映画はファンクのようにならないよう、満州独自の風土や中国人の民族性をよく理解したうえで作るべきだ、と口を揃えて説かれている。 このように、『満洲映画』日文版創刊号でドイツ映画に向けられていたふたつの期待は、1940年までのこの雑誌の誌面から読みとれるかぎりでは、いずれも実現されることはなかったようである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦時下の映画雑誌として『満洲映画』は特異な位置を占めている。そこには「新しい国」である満州の映画文化を一から創出しようという気概が溢れているのである。満州唯一の映画製作会社であり、映画配給会社であった満映において、ドイツ映画がどのような役割を期待され、実際にはどのような位置づけに落ち着いたか、雑誌『満洲映画』にもとづいてある程度あきらかにできたことは、本研究全体のなかで大きな意義をもつといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き戦時中の映画雑誌からドイツ映画にかんする言説を拾い、その影響について考察する。比較的リベラルな『キネマ旬報』(1941年からは『映画旬報』)と映画国策のなかで組織された大日本映画協会発行の映画雑誌『日本映画』とをきめ細かく分析し、両者の比較も試みたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍であったこともあり、物品の購入がほとんどとなり精力的に資料を収集したが、調査旅行がほとんどできなかったために次年度使用額が生じた。
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Research Products
(1 results)