2021 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イングランドにおけるイスラム演劇の改宗のテーマとその政治的・宗教的推進力
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21K00359
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Research Institution | Morioka Junior College,Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
石橋 敬太郎 岩手県立大学盛岡短期大学部, その他部局等, 教授 (80212918)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ペルシャ / 反トルコ政策 / カトリック改宗 / イスラム演劇作品 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、ジョージ・ウィルキンズ、ジョン・ディーおよびウィリアム・ロウリーの合作による『英国三兄弟の旅』(1607)を対象として、ペルシャとの関係構築をめぐるイングランドとキリスト教ヨーロッパ諸国の実際について分析を行った。従来の研究では、劇中のシャーリー三兄弟の一人アンソニーのキリスト教ヨーロッパ諸国訪問の出来事を通して、ペルシャの現状と同国とのキリスト教ヨーロッパの関係を肯定的に紹介するプロパガンダ劇とみなされてきた。その背景には、ヨーロッパの脅威であったトルコを払しょくする目的でペルシャとの同盟を求める勢力の存在があった。 しかし、歴史上のシャーリー三兄弟のペルシャとのかかわりに関する歴史資料や関連する公文書を吟味すると、劇中では要領を得ないシャーリーのキリスト教ヨーロッパ諸国訪問が描かれていることが明らかとなった。すなわち、彼が会見した君主たちにペルシャとの同盟をめぐる結論は示されていない。また、歴史上のドイツの君主やヴェニスの元老院は、シャーリーの計画に極めて否定的な姿勢を示していた。このような現実を文脈とするとき、劇中に描出されている出来事は、ペルシャとの同盟に懐疑的なイングランドやキリスト教ヨーロッパ諸国の実際を映し出していたことになる。さらに、劇中のロバートが皇帝アッバース一世に認められてペルシャに建設する教会はカトリックであり、プロテスタント王国イングランドの宗教政策とも相いれない。 以上の分析から、本劇は、ペルシャとの同盟を求めるプロパガンダ劇ではなく、むしろ同国との同盟を歓迎しないイングランドひいてはキリスト教ヨーロッパ諸国の実際を描いた劇であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来、ジョージ・ウィルキンズ、ジョン・ディーおよびウィリアム・ロウリーの合作による『英国三兄弟の旅』は、イングランドおよびキリスト教ヨーロッパ諸国の親トルコ政策に反して、同国の脅威を払しょくする目的でペルシャとの同盟を求める勢力の意向を反映したプロバガンダ劇とみなされてきた。しかしながら、当時の歴史資料や公文書を駆使した研究により、劇中に要領を得ないシャーリー兄弟の一人アンソニーのキリスト教ヨーロッパ諸国歴訪を見出すことができた。また、このヨーロッパ諸国歴訪においてアンソニーがカトリックに改宗するほか、弟のロバートがペルシャにカトリック教会建設をペルシャ皇帝アッバース一世に認められる出来事は、その後執筆・上演されるカトリック改宗を主題とした演劇作品につながることを確認できた。ここに、トルコやペルシャなどイスラム諸国との接触には、キリスト教の統一を必要とするイングランド国王ジェイムズ一世の宗教政策を見い出すことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
1620年代になると、トルコなど異教徒の王女をカトリックに改宗させて結婚するキリスト教(カトリック)男性を扱った演劇作品が次々と執筆・上演された。ジョン・フレッチャー作『島の王女』(1621)とフィリップ・マッシンジャー作『背教者』(1624)が代表的な演劇作品である。歴史では、キリスト教男性がイスラム教などに改宗し、異教徒の女性と結婚することはあったが、その逆の前例はない。異教徒の女性をキリスト教、とりわけカトリックに改宗させる演劇作品が目指したところはどこにあったのか。あるいは、このような改宗が上演可能になった背景には何があったのか。 今後は、異教徒女性のカトリック改宗が意味するところを当時の歴史資料と公文書などを駆使して、動的な解明を試みる。その手初めとして、令和4年度には、フィリピンの南に位置する東インド諸島(香料諸島)を舞台として、多神教のティドーレ王女キザーラをカトリックに改宗させて結婚するポルトガル人男性を描いたフレッチャー作『島の王女』を分析の対象とする。
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Causes of Carryover |
図書の注文が遅れてしまったため、次年度使用額が生じた。次年度は、図書費を増額することで対応する。
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