2022 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イングランドにおけるイスラム演劇の改宗のテーマとその政治的・宗教的推進力
Project/Area Number |
21K00359
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
石橋 敬太郎 東北学院大学, 文学部, 教授 (80212918)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ペルシャ / 香料諸島 / 改宗 / キリスト教 / 植民地化 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、ジョージ・ウィルキンズ、ジョン・ディーおよびウィリアム・ローリーの合作による『英国三兄弟の旅』(1607年執筆)とジョン・フレッチャー作『島の王女』(1621年執筆)を対象として、なぜキリスト教徒が異教徒を改宗させたのかについて、当時の歴史資料や現存する公文書などをもとに分析を行った。分析の結果、ウィルキンズほか作『英国三兄弟の旅』においては、イングランドとペルシャとの同盟関係を築こうとするシャーリー家の三男ロバートが皇帝アッバース一世の姪との結婚と、キリスト教会と教育施設の設立を通して、同国のキリスト教化による同盟をもくろむプロセスを明らかにした。また、フレッチャー作『島の王女』においては、武力をともなうポルトガルの重商主義を通して、主人公アーミュジアが香料諸島の一つテルナテ島の王女キザーラをキリスト教に改宗させて結婚し、同島を植民地化するプロセスを明らかにした。武力と改宗を背景としたポルトガル人の植民地化は、本劇が執筆された当時の同国の植民地政策と重なり合うことも見出した。 劇作家たちが描く舞台には、改宗を同盟関係の構築や植民地政策に利用する人たちの戦略が映し出されていると結論した。これらの戦略は、改宗に消極的なイングランドの海外貿易や植民地政策とは著しく異なることを確認した。このあたりに、イングランドの改宗政策の実際を見出した。劇作家たちは、グローバルに展開するポルトガルやスペインなどの武力と改宗による植民地化をステュアート朝イングランド人に示したのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異教徒をキリスト教に改宗させる主題を扱った、ジョージ・ウィルキンズ、ジョン・ディーおよびウィリアム・ローリーの合作による『英国三兄弟の旅』 (1607年執筆)と、ジョン・フレッチャー作『島の王女』 (1621年執筆)を歴史資料や現存する公文書などをもとに時系列的に論じることができた。分析の結果、『英国三兄弟の旅』においてはシャーリー家の三男ロバートの教会と教育施設の設立によるペルシャのキリスト教化と、『島の王女』においてはグローバルに展開するポルトガルの武力や改宗をともなう重商主義と植民地化の実際を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
イングランド国王ジェイムズ一世は、トルコなどイスラーム諸国からの政治的・経済的な脅威を払拭するために、ヨーロッパ諸国との協力関係を構築しようと、プロテスタント主義とカトリック主義を統一した世界宗教の確立を急いでいた。 このような時期に、イスラーム教徒をキリスト教に改宗させる演劇作品が執筆・上演された。その主な作品として、ジョン・フレッチャー作『島の王女』 (1621年執筆)とフィリップ・マッシンジャー作『背教者』 (1624年執筆)が挙げられる。『島の王女』と同様に、マッシンジャーの『背教者』も、終幕においてカトリック教徒が異教徒の王女を改宗させて結婚する。本年度は、カトリックへの改宗が意味するところを当時の歴史資料や現存する公文書などを通して動的な解明を試みる。この分析により、プロテスタント主義イングランドにおいて異教徒のカトリックへの改宗がどのような意味をもったのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
学内業務のため、シェイクスピア学会(於甲南大学)に参加できなかったため。
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Research Products
(2 results)