2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00442
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
香田 芳樹 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20286917)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ハビトゥス / 習慣論 / アリストテレス / マイスター・エックハルト / 徳 / 幸福 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代ギリシアから中世を経て現代に至るまでさまざまに論じられてきた、「ハビトゥス」が「変化する時代の要請に応えた社会思想 」であることを通時的視点から証明することを目的としている。 2021年度はこの計画通り、論文『Tugend und Glueck. Zum Habituskonzept bei Aristoteles und Meister Eckhart』(徳と幸福 ―アリストテレスとマイスター・エックハルトにおけるハビトゥス構想)を執筆し、アリストテレスが『ニコマコス倫理学』で論じた「幸福」論を分析し、個人の幸福と社会の安定のために「習慣化された質」が倫理的に要求されたことを証明し、これがギリシアの都市国家(ポリス)の理念と符合していることを示した。 こうした社会観は中世に入って、トマス・アクィナスやマイスター・エックハルトの習慣論に受け継がれた。トマスの神学的体系的ハビトゥス研究と並んで、エックハルトが『教導講話』で示した、修徳の教えには社会生活を営む修道士のもつべきハビトゥスが説かれているが、これは教会権力の低下による信仰の個性化が大都市で引き起こした「新たな敬虔」(デヴォーチオ・モデルナ)に対する答えであった。アリストテレスが社会倫理として強調した「中庸」が、ここでは「不動」(Bestaendigkeit)に読みかえられ、過激な宗教性を牽制している。ここから、新興の托鉢修道会の長として、都市市民の新たな信仰スタイルに対応するためにエックハルトが提唱したハビトゥスは、都市生活の新たな倫理基準を理論的に下支えする役割を果たしていたという結論を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年間の研究で古代と中世思想史におけるのハビトゥス分析をおおむね終えることができた。これによって、中世後期の礼儀作法書における修養概念の分析と、18世紀の市民社会成立期における家庭論の分析にスムーズに移ることができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は前年度の成果の上に、次の二つの課題の消化を目指す。 1)中世後期に書かれた2つの優れた礼儀作法書、トマージン・フォン・ツェクレーレ作『イタリアの客』(Der Welsche Gast)と、フーゴ・フォン・トリンベルク作『レンナー』(Renner)を分析し、そこに現れたモラルが封建社会の終焉と、都市市民社会の形成にそったものであることを考察したい。 2)それに続き、18-19世紀の近代的市民社会の成立の際にハビトゥスが果たした役割を考察する。その際キーワードとなるのが「家庭愛」である。それまでの職住近接が分離し、家庭が独立した意味をもつ過程で感情、とりわけ「愛」が親密空間の形成要因として注目されるようになった。個人と市民社会をつなぐ「親密空間」の形成のために、ハビトゥスがどのように働いたかを啓蒙思想期のレッシングやレンツの文学作品、哲学者ヘーゲルの『法哲学』を分析することで、18世紀の近代市民社会のハビトゥスの実相を描き出したい。
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Causes of Carryover |
当初計画していた国内の資料収集がコロナ第5波の影響で遂行できなかったため。コロナ禍の終息とともに、資料収集を再開する予定である。
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