2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00442
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
香田 芳樹 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20286917)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ハビトゥス / ヘーゲル / 法の哲学 / 性革命 / ルツィンデ |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は18世紀の啓蒙主義から19世紀初頭の「家族」のハビトゥスの変遷を研究課題とした。その成果は、『家族の習俗から社会の法へ ―ヘーゲル『法の哲学』における市民的ハビトゥスの構想』(『藝文』印刷中)に発表した。 18世紀の近代市民社会の成立は、家族のあり方に多様性をもたらした。それは男女の間の恋愛関係が結婚へと続く過程で、封建的・父権的構造を脱し、個人の選択と責任に委ねられるようになったことを意味している。 ヘーゲルの『法の哲学』は実証主義の影響の元、家族と市民社会と国家の関係を哲学的弁証法的発展の中で叙述しようとした講義録である。本研究では、その弁証法的社会観の限界を指摘し、因習的なハビトゥスから作られた家族の「習俗」が市民の「法」へ発展していく過程に注目し、家庭という親愛圏が公共圏と対立的な緊張関係のもとに自己変容を起こすことを論じた。 ヘーゲルの結婚観と家族論の問題点を検証するために、同時代の文学作品に描かれた結婚観と家族観との比較をおこなった。文学史における記念碑的作品である、レッシングの『エミーリア・ガロッティ』や、シラーの『たくらみと恋』、シュレーゲルの『ルツィンデ』は、個人が独立して家族が解体し、市民社会へと再編されるのではなく、家族が旧来の恋愛価値観と対決しながら、公共的市民社会を下支えする要素となっていく過程を描いている。この点でヘーゲル哲学の家族観、恋愛観が一面であることは否めない。その理由の1つに、「性革命」と呼ばれた、19世紀の大きな性風俗の変化があったことを指摘した。19世紀社会を襲った性意識の劇的な変化が哲学と文学の描く家族間に影響を与えていることを、社会学の研究成果に基づいて論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果を『家族の習俗から社会の法へ ―ヘーゲル『法の哲学』における市民的ハビトゥスの構想』(『藝文』印刷中)に発表できたことにより、進捗は順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度のあたる2023年度は、18世紀以降コンディヤック(1715-1780)を初めとするフランス実証主義者が動物の「習性」を分析することで人間の行動のメカニズムを解明しようとしたことを究明したい。これは2022年度の市民社会の成立を法的実証主義の元に叙述しようとしたヘーゲル研究をさらに発展させるものである。このために、19世紀に動物の習性に関して書かれた英仏の研究書を分析し、ハビトゥス論と動物学の関連を明らかにする予定である。
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Research Products
(1 results)